《 登場人物 》

 

岡田めぐみ  主人公  学園のアイドルだったが今はひきこもっている

水田ひろ子  めぐみの女友だち

薄田一郎    めぐみの元クラスメート 彼氏に昇格

 

 

 

目を覚ましたのは夕暮れ時だった。

 

私はベッドに横たわって天井を見つめていた。

額にふれると熱は下がっていたが

生え際はまだ湿っていた。

 

家の中はひっそりと音もなく

誰もいないかのように静まりかえっている。

 

ここは本当に私の部屋なの?

 

室内は残照で古い写真のような色に染まり

見慣れた自分の家とは違う別の家のようだった。

 

私は見知らぬ家に連れてこられた小さな

子どものような心細い気分になった。

しばらくその思いに浸った。

 

今まで寝ていた小さい子。

 

それは何て心休まる空想だったことだろう。

索漠とした気持ちの中にわずかな光がともった。

 

私はずっと寝ていて今、目が覚めたばかりの

幼い子どもだ。

まだ何も始まっていない。

今までの事は全部夢だった。

いろんな事が起きて長い間に感じたけれど

本当は本のページを数枚めくるように

短い間に見た夢だったのではないか。

 

 

どこからが夢だったのだろう。

病気になって苦しい思いをしたこと。

誰にも会わず、ずっと家にひきこもっていたこと。

大学受験に失敗して周りの友だちと

大きく隔たりができてしまったこと。

あんなことや、こんなこと。

 

全て寝ている間に見た夢だった。

目が覚めた今、私はいったいいつに

戻っているのだろう。

 

小学生それとも中学生?

あの頃は楽しかった。

今が自分の最良の時だと自覚していた。

そこからもう一度失敗のないようにやり直せたら

どんなにいいだろう。

やり直せたら……どんなにか……。

 

 

でもそれこそが夢、はかない夢なのだ。

 

現実は容赦なく厳しい。

どんな力を使っても少しも変えられない。

 

 

口の中がカラカラに渇いているのに気が付いた。

お腹もひどくすいている。

そうだ。今日は一日何も飲み食いしていなかった。

 

私は身を起こしベッドを降りると

力のない足どりでドアまで歩いた。

 

階段の下をのぞくと透きとおった青い陰が

充ちていた。

明かりをつけなくてもかろうじて

自分の足元は確認できる。

まるで大きなダイビングプールの底に

下っていく階段のようだ。

いつもより高く長く延びたように感じて足がすくむ。

 

 

私は脇の手すりにつかまりながら

一歩一歩水中に降りて行った。

 

家のどこからか、ささやき声とテレビの音が聞こえる。

水の中をくぐって廊下を進み

一階の暖かい光のにじんでいる方へと歩いていった。