石畳のアプローチを歩き、ステンドグラスがはめ込んである大きな木の扉を押しあけた。

 

足を一歩踏み入れると、ふわりといい香りが私を包んだ。

これは何の香りだろう。

サンダルウッド。そしてほのかにラベンダーも混じっている。

 

青っぽい花柄のエスニック調のカーテンが掛けてあるのを

めくって入ると、奥に人がいた。

 

髪の長い女性が入口に背を向け、陳列棚の上の衣類をたたみ直している。

私が入ってきたのに気づかないほど作業に没頭していたが

気配を感じたのか急に振り返った。

 

「わっ」と大きな声を上げ、喜劇役者のように大げさにひっくり返った。

 

私もあわてた。

「すいません。声もかけずに中に入ってきて」

 

「あ、いえ、こちらこそぼんやりしていました」

女性はワンピースの裾を払いながら、にこっと笑った。

「遠慮なさらずに、さあ、どうぞ見ていってください」

 

異国情緒ただよう謎めいた店の人らしからぬ気どりのないふるまいに

私はほっと安心した。

 

店内をゆっくり見て歩いていると、女性は何か言わなければと思ったのか

「うちはアンティークが多いんですよ」と話しかけてきた。

「ただ古いっていうだけ。オープンしてからずっと置いてあるんですよ」

 

確かによく見れば、花瓶などオブジェが置いてある棚の上は

全体的に埃がうっすらたまっている。

 

「私もアンティークなんですけどね」と言って一人で口を押さえてぷっと笑ったが

私はここでいっしょに笑っていいものか困ってしまった。

 

彼女は化粧をしていないが、肌は皮のように滑らかで、薄いそばかすが浮いている。

面長の顔、秀でた額、切れ長の一重まぶたで、整った顔立ちだと言えるだろう。

 

きっと人工的なものを嫌い「自然」だとか、「ありのまま」、「自分らしさ」を

信条にして生きている人だ。

 

白髪の筋が混じった艶のない長い髪を、無造作に一つに束ねて

黒いロングワンピースを着ている。

 

「やっぱり魔女だったんだ」と私は内心おかしくなった。

 

 

私が立ち止まって商品を手に取ると

「そのTシャツ人気の商品で、色違いがありますよ」とか

「肌になじんで使いやすいんです。これからの季節お勧めですよ」

とか声をかけてくる。

 

普段はうるさく感じることもあるのだが、私が聞きたいと思ったことを

ちょうどいいタイミングでさりげなく言われるので、心にすっと入ってくる。

まるで気持ちが通じ合っているみたいだ。

 

私はだんだん気分が高揚してきた。

 

この店が好き!

この女性とは波長が合う!

 

もっと早く来ればよかった。