カクテルグラスの夜景 21話 友の助言 | たそがれ館へようこそ

たそがれ館へようこそ

夕暮れ時に物思うことはありませんか。来し方のことを振り返って小説を書いています。

【これまでのお話】

清司とえり子は市役所に勤めて数年の若いカップル、

清司は別館に異動になり室長をはじめとする職場のハラスメントに悩んでいた

一方、えり子も新しい職場で期待と緊張の入り混じった気持ちでいた。

 

 

 

「そうだったのか。新しい職場はいろいろと大変なんだな」

黒木は淡々と答えた。

 

単なる紋切り型の返事なのか、それとも自分について何か聞き及んでいるのか、

どちらとも受け取れる言い回しで清司は返事を一瞬ためらった。

 

「早川清司が職場で孤立している」なんて。

もし話が黒木のところまで伝わっているとしたら何だかすごくばつが悪い。

 

お互いに相手が言い出すのを待ってしばらく無言で並んで歩いた。 

 

先に口火を切ったのは清司の方だった。

「今のところ、資料室、全然勝手が違うんだ。早く本庁に戻りたいよ」

大げさにため息をつきながら言った。

 

「人間関係独特だからな」

黒木は真面目な顔をして言った。

 

「あそこのは室長は、前市長の時は秘書室長をやっていたほどの人物なんだけど

選挙で破れて以来ずっと別館勤務だ。

毎年返り咲きを狙っているけど、最近はあきらめの心境らしいよ」

 

「ああ、そうらしいね」

清司は頷きながら黒木が役所内の事情に精通していることに感心した。

 

「天童さんって知っている?」

「ああ。知っているよ。

室長と同じく前市長派に属していた人で部長にまでなった人で

室長を目にかけて引き上げてくれた人でもあるんだよ。

退職後も市の外郭団体の理事をやっていた」

 

「うまく勤め上げた人なんだな」