第二十三話 中編・姉弟の絆
空は白く、晴天だった。
「ゆーちゃん、右ーっ」
「ブリッツ」
優希の右手から光弾が放たれる。
光弾はみごとに的―――猿のような、しかし明らかな魔法生物―――に当たり敵を粉砕する。
「ユウちゃん、大丈夫?」
優希は右手を火傷していた。
光弾の打ちすぎだ。
いくら防御しているからと言って、光弾のような熱い球を扱うことで火傷しないのは、奇跡に近い。
一発一発の軽い火傷の積み重ねが、大きな火傷に至る。
「コスモスちゃん、秋雨君、ユウちゃん回復させるから、守りかためて」
「仕方ないわね」
「ああ、わかった」
紅 コスモス―――太陽杯で、優希と一回戦で戦った女の子―――と、秋雨 十六夜―――同杯で桜と準決勝で戦った天才―――が、優希とナデシコを囲むように陣を敷く。
「ありがとう、ナデシコ」
「私、これくらいしか出来ないもの」
ナデシコが回復の魔法で優希の右手を治療する。
回復の魔法は、魔法の中でも高位魔法に属する。
体の仕組みを理解していないと出来ない魔法だからだ。
なので回復魔法を使えるのは、一部のオリンポス十二神に限られていた。
史奈子が、簡易とはいえ回復魔法を使えるのは、この死線でとても助かることだった。
太陽杯での自らの無力さを痛感し、せめて何か出来ないかと悩みぬいた、史奈子の結果だった。
「何が敵でも、ナデシコが味方ならボクは戦いぬけるね」
「ユウちゃん、言いすぎ」
言葉とは裏腹に史奈子は嬉しそうだった。
「皆生きて地上に帰るよ」
優希の姉、芙由の、天空船制覇部隊のリーダー、オリンポス十二神、弐の位、ユノ。その言葉。
「はい!!!」
敵の数は数千、対してこちらは五人。
生き残るために、ボクらは戦うんだ。
優希は再び立ち上がる。
「こうして、面と向かって話し合うのは初めてだな、真田君」
「は、はい」
校長室、優希は大央部魔法学園校長、式臥 皇至王に面会していた。
「もっと、ちゃんとした場で君とは話したかったのだが、まあ今は仕方ない」
間近で見た校長の印象は、ライオン。
百獣の王ライオンがぴったりの印象だ、優希にはそう感じられた。
「知ってのとおり、私の息子、式臥 魔人が世界に宣戦布告をした」
頭痛がしたのだろう、校長は眼頭をおさえる。
「すまない。息子は、魔人は放浪癖があってな、この学校の中等部に本来なら在籍しているのだが、半年ほど前から休校しておる」
軽く息を吸って―――ため息だろうか―――言葉を続ける。
「その間に世界征服の準備をしていたらしい」
言ってその言葉の現実味のなさを痛感する。
「いやいや、息子は歴代の式臥家でも類まれなる魔法使いでな、あながち放言とも言えんのだが」
そこで言葉を区切る。
校長自身、言葉の歯切れが悪いことを実感しているのだろう。
次の言葉から、力を込めたのが分かった。
「息子を止めてほしい」
「ボクが?ですか」
「君はあに―――いや、君にしかできないのだ」
それからはこの学園の勢力図について語られた。
勢力図といっても学園内は一枚岩だ。
生徒会長、式臥 武人を中心にオリンポス十二神がかためるこの学園は、国家並の力を持っていた。その、国家間での勢力図だ。
十二神が動くことは勢力図からいって、非常にまずいことだという。
国家バランスが崩れる。
だからと言って、魔人を止めるくらいの力があるのは十二神以外にないという。
ここは、特例として十二神の一角、弐の位ユノを動かすということだった。
それだけでもかなりの大事らしい。
そして、太陽杯で好成績を収めた優希と十六夜。
残念ながら、火とは連絡が取れなかったらしい。
SSフィールドが張れるコスモス。
本人の進言と、回復魔法が使えるということで史奈子。
の五名が、魔人を止め、連れ帰る作戦、魔人捕縛作戦の、メンバーだった。
あくまで必要最低限の人数。
潜入作戦故の人数だった。
「で、どこにいるの魔人君」
「潜入って、思いっきり戦っているよね」
天空船。
甲板のようなところ。
空が見える。
天空船とは文字通り空に浮かぶ船だ。
優希の瞬間移動で来た。
五人も同時に運ぶのは失敗の可能性が高いということで、二人ずつ四回も運んだ。
ゆえに、優希の疲労は最初から、かなり高かった。
「こんな大きいもの、よく一人で作れたね」
優希の感想はもっともだった。
全長三キロメートルの超超巨大戦艦。
まさに世界を征服せんとする輩が作りそうなものだった。
「各国が既にこの天空船に向かってミサイルを発射してもおかしくない状況に陥っている。僕らの作戦、魔人捕縛は速やかに実行しないと」
十六夜の状況分析は正しい。
速やかに実行しないといけない。
しかし、この天空船には魔法生物が無数に生息していた。
その数、数千と芙由は言っていた。
五人ですべて倒せる数ではない。
それどころか前に進むのも怪しい。
先ほどから何メートル進んだだろうか。
光弾。
猿―――らしき魔法生物―――を吹っ飛ばす。
「でもおかしいね」
「なにがっ」
コスモスは相当いらだっている。
この膠着状態では仕方ないかもしれない。
まあ、本人の性格によるところもあるだろう。
「この船、世界征服の旗艦にしては大砲とか爆弾?みたいなの無いよね」
「この船で物理的に世界征服するのではない、そう言いたいと?夏木さん」
「物理的でないとしたら、一体…?」
芙由の疑問。
物理的ではないとしたら…
考えられるのは―――
「それは、そう、例えばこの船自体が何かの装置だとか」
十六夜の言葉に、優希は何かがひらめきそうだった。
しかし、
「そこまでだ」
恵比須顔。
その男は、まさにあいつだった。
「魔人」
芙由の言葉。
魔人の立っている場所まで魔法生物が道をあける。
「お前はっ」
ネガティブ鳥を連れ去った男。
「ふうん、父さんはこう出たのか」
視線が五人に注がれる。
そして、芙由のところで止まった。
「十二神の中でも一番生まれの卑しい女を選んだのか」
「おまえっ!!!」
芙由ではなかった。
優希が動いた。
「姉さんを侮辱するなっ!」
「ゆーちゃん…」
光弾が魔人へ飛ぶ。
しかしその光弾は魔法の障壁に阻まれ簡単に消え去った。
いや、魔法ではない。
「フィールドなしで魔法なんてありえない!」
十六夜が叫ぶ。
その障壁は、確かにフィールドなしで張られたものだった。
「兄さん、酷いなぁ、いきなり光弾?」
「誰が兄さんだ、お前とは血がつながっていない!」
しかし、十六夜はその瞬間に暗い表情を見せた芙由に気づいていた。
「ユノさん?」
「式臥家には四人の後継ぎがいる」
魔人がいきなり語り始めた。
「長男 大央部魔法学園高等部、生徒会長 式臥 武人」
オリンポスの頂点に立つ、雷の神ユピテル。
「長女 同中等部、第三魔研部部長 式臥 愛子」
愛ちゃん。
「三男 愛子の双子の弟、この僕 式臥 魔人」
ああ、そう…だ?いや、三男?
次男は?
「次男 大央部魔法学園高等部、一年」
「真田 優希」
「な、にを?」
頭が混乱する。
ボクが式臥家の一人?
愛ちゃんや会長の兄弟?
「ねえさ…」
姉は瞳を逸らす。
その事実は―――
「さらばだ、兄さん」
床が消えた。
いきなり、穴が足元にできた。
「っ」
空中。
頭が混乱していたが、このまま落ちれば死ぬことも分かっていた。
「きゃあ」
「うわあああ」
周りには、史奈子とコスモスがいた。
「フィールドをっ」
「うんっ」
史奈子とコスモスがフィールドを展開する。
それは、仕方のないこと。
だって出来ないもの。
やってみる価値はあるかもしれない。
でも、失敗すればみんな死ぬ。
それは、仕方のないこと。
瞬間移動できる人数は、
二人。
「さよなら」
優希が残った。
史奈子とコスモスは無事、地上へ生還しただろう。
優希は残った。
ボクは死ぬ。
それは仕方のないこと。
会長、ありがとう。
姉さん、ありがとう。
母さん、ありがとう。
桜、ありがとう。
史奈子、ありがとう。
ニア、
ニア、
「生き残れよ」ニア
ニア!!!
ボクは、生きる!
「SSフィールド、展開っ!!!」