ONCE MAGIMAGI -16ページ目

第二十四話 後編・墜落する巨大質量

姉とは父が違う。

それは知っていた。

姉は、望まれて生まれた子供じゃない。

姉自身がそう思っていた期間は、その人生の三分の二を占める。

ついこの間、自分が言ったのだ。

「だって、お姉ちゃんだもん」

その言葉は、優希にしてみれば何気ない一言だった。

しかし、その時から姉は変わった。

吹っ切れたみたいだった。


「はあ、はあっ」

息が切れる。

体力切れというよりは、緊張からくる酸素不足だ。

優希は空中戦艦内にいた。

地上には戻らず、あえて敵のど真ん中に突っ込んだ。

姉と十六夜、それとネガティブ鳥の救出が大きな目的だ。

できたら、魔人を捕縛。しかしそれはあくまでも、できたら。

多分、SSフィールドが張れるようになった優希でも敵わない。

経験無き憶測だった。

魔法生物、猿どもは、たまに見かけるが、なんとかうまくやり過ごしていた。

息を整えながら、優希はある部屋へと到着する。

そこは暗く広かった。

円形の部屋で、中心がぼんやり光っている。

そこに、いた。

「鳥!」

鳥は、大きな試験管に入れられ、ブクブクと泡を立てていた。

「来てしまいましたかい」

「鳥、今出してやる」

光弾を放とうとする。

「だめだ!!!」

光弾は後ろから延びた手によって、押えられた。

「!十六夜?」

「この鳥もどきは、キーだ。この試験管から出るようなことになれば、船は墜落する」

「?」

背後から現れたのは、十六夜と……魔人!

「兄さん、今この船が墜落すると、ちょうど学園に落ちる計算になるよ、あそこには、いろんな人がいるよね」

一呼吸。

「父さんに、兄さん、姉さんもいるだろう」

「なんでわかる?」

優希の言葉に、素直に真人が答える。

「オリンポス十二神は皆―――もちろんユノは除くけど―――姉さんを守るために学園に集合してるだろうね」

「愛ちゃんを守る?」

「真田、君は知っていたな、世界の法を変える方法」

十六夜だった。

「僕と姉さんがいて初めて成り立つ」

言葉。

神々しか知らない言葉。

それは、

「世界律変換方」

魔人は知っていた。

プロパティの書き換えのことを、その存在のことを。

「この船は、世界律変換法のための魔力を増幅する、ブースターなんだ」

「?、何を、プロパティの書き換えに魔力が必要?」

「世界律変換方といっても、魔法の一種だからね」

理解できない。

「プロパティの書き換えと、魔法は別物だっ」

「本気で言ってる?」

視線が冷たい。

そんなことも知らないのかという顔だ。

「幻滅だよ、優希兄さんなら理解できるかもって思っていたのに、武人兄さんと変わらないね」

癇に障るが、あえてここはおさえる。

「武人兄さんは、僕ら兄弟の中で、ただ一人の普通」

会長が普通?

「才能も、特殊な力もない」

そして、告げられる本当の事実。

「兄弟最弱なんだよ、知らなかった?」

「お前に何がわかる!」

「うん、そうだね。僕の本当の実力を見ればわかるよ。さあ、試運転と行こうか、秋雨、始動だ」

「ああ」

「十六夜!?」

そこで、優希はやっと気付いた。

十六夜が、魔人と共に現れたこと。

そして怪我ひとつない十六夜の姿。

それが示すことは、


裏切り


だ。

「世界戦艦、テルス」

暗かった部屋に次第に明かりがともる。

その光は徐々に明るくなり、視界を白でうめた。

強い光。

その光が収まる頃に、優希が目をあけると、そこには映画のスクリーンのようなもので外の風景が映っていた。

「破壊の光、学園をつぶせ」

さりげない、魔人の一言。

しかしその力は人の推し量れるものではない。

テルスよりはるか上空から一条の光が学園に落ちた。

「みんな!!!」

光は学園を包む。

強烈な破壊力を持った光であることは、一目瞭然だった。

しかし、

「父さんか、だがこの程度…?」

障壁だった。

学園を障壁が守っていた。

「時縛り!」

優希の不意打ち!

「ふんっ」

軽くかわされた。

受け止めるでもなく、キャンセルするでなく。

「僕とやる気かい?」

「ここで止めなきゃ、世界が終る!」

「大袈裟だなあ、世界は滅ばない。姉さんと僕だけの世界になるんだ」

「それが、目的か!」

優希の光弾。

魔人は障壁ではじく。

「ならば」

優希が消えた。


外。

空中に足場を造り、優希が立つ。

「光弾!」

連続。

空中世界戦艦テルスに、優希の光弾が降り注ぐ。

「壊すっ」

しかし、効果的ではない。

攻撃力が足りない。

一気に吹っ飛ばすことも優希になら可能だろうが、中に姉がいる。

浮力が失われるのも、あまり良いことではない。

学園に落ちる。

増幅装置としての機能だけを失わさせなければならない。

光弾を打ちながら優希は探した。

どこかにある。

管制室。

目立った所にそれは見えなかった。

「あるわけないよ、僕の力は直魔法だ」

背後に魔人が立っていた。

「僕の、行動、思考、感覚、全てが魔法になる。フィールドなしでね。それが僕の特能」

「!?」

「すべての魔法をキャンセルする、姉さんとは対極の能力」

それが意味すること。

「無敵じゃないか」

「そうだよ、だから諦めな、世界は僕が救う」

「諦めるかっ!」

光弾を背後の魔人へ。

「無理だよ、諦めなよ」

そこで魔人は、右手の人差し指で天を指す。

「どかーん」

雷。

しかもこの形は、

ドラゴン!

「説明会の!」

たしか、ドラゴユピテルサンダーガ。

造形魔法だ。

攻撃魔法にしては、派手すぎるし威力も弱い。

しかし、その実行については、優希の時縛りより正確な精度が求められる。

会長一人では作れず、芙由の力を借り、さらに集中の時間を必要とした魔法。

それをこの少年は一人で、しかも一瞬で構成。

驚愕がスキを生む。

直撃する魔法。

威力がないとはいえ、感電はする。

集中力の途切れから、SSフィールドが消えた―――落ちる。

フィールドを張りなおし、体勢を立て直す、

ことが出来ない。

体がしびれて。

「ま―――ずい」

落下はゆっくりと―――。

「真田ー!!!」

遠い、呼ぶ声。

聞いたことのある声。

十六夜。


「諦めるな、世界はまだ終わっていない!!!!!!」


力だった。

力が、何か、

体の奥から湧いて出る。

何をした?

しかしその疑問は後。

「SSフィールド展開!」

即、空中に足場を作る。

空気の塊を生成。

そこに立つ。

「魔人ーーーーーーっ!!!」

手加減一切なしの魔力放出。

優希も後のことは考えていなかった。

ここで全力を出して決める。

できなきゃ、世界の終わりだ―――。

「お前ーーーーーーっ!!!」

魔人も魔力を放出した。

ぶつかりあう力と力。

拮抗するかと思われたが、それはなかった。

優希の力が押した。

圧倒的に。

「お前お前お前ーーーっ!」

障壁で魔人は何とかやり過ごす―――ことも出来ない。

「うおおおおおおおおおっ!!!」

「うおおおおおおおお」

二人の叫びが天空を貫いていく。


そこには誰もいなかった。

「勝った?」

跡形もなく吹き飛んだ。

とは、優希は少しも考えていなかった。

おそらく―――

「やってくれたね、兄さん、秋雨」

「瞬間移動」

しかし無傷というわけでもなかった。

左腕に力が無い。

服が破れている。

何より顔が焦燥している。

「もういい」

小さな声だった。

小さく。

「皆死ね―――」

気がつくと、魔人は右手に何かをつかんでいた。

黄色い、

豚?

「死ね―――っ!!!!!!!!!」


世界戦艦テルスが墜落を始めた。


「十六夜、先程はありがとう。ところで姉さんは?」

「ああ、人質に取られて、奴に手伝わされていたんだ。もう見つけて非常艇で地上に送った。特に怪我らしい怪我はしてなかったけど、気を失っていた。大丈夫だろうか」

「うん、そこまでしてくれたんだ、ありがとう」

そこで言葉が止まる。

「今、この船は墜落を始めている」

「約三十分後には、学園に落ちるって計算に出た」

「止めなきゃ」

「ああ!」


瞬間移動。

テルスの真下に出る。

互いにDDSフィールドを張り―――慣れているし、統計的にもDDSフィールドの方が地力が出ると習っていた―――足場を作り、光子体化。

「止めなきゃ、学園がつぶれる」

「でっかいなあ」

「落下軌道を変えるぞ!!!」


戦艦の下だ。

太陽は見えなかった―――。


巨大質量を止める