落語噺「花見酒」のあらすじは、酒好きの辰さんと熊さんが花見に行くことになったが、ついでに花見客に1杯10銭で酒を売って一儲けしようとする話。酒樽を担いで花見会場に行く途中、酒の匂いを嗅いで我慢ができなくなった熊さん。「誰に売っても同じ」と辰さんに10銭渡して一杯飲み干す。これを見た辰さんも我慢が出来なくなって熊さんに10銭渡して一杯飲み干す。こうなると止まらない、一杯がもう一杯と繰り返していくうちに酒樽が空になってしまった。全部売れたと喜んでいても残ったのは元銭の10銭が残っただけという噺。

国の経済が発展していく過程で金融業の比重が高まっていくのは万国共通。資本集約型の産業はピンからキリまであるが、例えばアメリカのヘッジファンドが為替差を使った円キャリー取引や、我々一般市民が株取引などで利ザヤを稼いだりしている。金をグルグルまわすことで株の値を上げたり、不動産の値を上げて利ザヤを上げることは出来る。しかし誰かの得は誰かの損と付加価値を上げている訳ではない。仮に付加価値であると強弁しても、同じモノの交換価値が上がっただけで富を築いていることにはならない。

金がグルグルまわっているうちは見せかけの繁栄にひたっていられるが、バブルがしぼんでしまえば酒樽が空っぽになる「花見酒の経済」そのものである。

もう20年前になるが、私はマンション経営(不動産貸付業)をやりたくて中古物件を探しまわっていた。関東地方で物件を何十件と見てまわり、最終的に栃木県にある4階建てと茨城県にある4階建ての2つに絞られた。築年数や構造など大体似たような物件で表面利回りもほぼ同じようだ。ただ栃木の物件には設備としてエレベーターが付いていた。不動産関連の仕事をしていたとはいえ、私には知識と経験が足りない。大きな理由は無かったのだが、第一印象が良かった茨城の(階段)物件を購入することにした。

今振り返えると、あの時の選択がもし間違っていたら私は大失敗していただろうと思う。エレベーター付きの物件はとても注意が必要で、とにかく金がかかるのです。

日々のメンテナンス費や電気代、25年位経つと箱のフル交換を提案してくる。中古で物件を購入する人は買ってから数年でエレベーターのフル交換と言われるかもしれない。見積書を見てビックリというのが普通の人の感覚だろう。あまりにも高いので「相見積もり」を取らせても日本のメーカーならどこも似たり寄ったりになる。では外国の会社ならどうだろう、と考えてみてもあまり進められない。

 

エレベーターの設備が無駄であると言っているのではない。ただ本当にエレベーターが必要な建物なのかどうか見極めたい。建物の高さ・家賃収入・入居者構成などを考え、収入と出費のバランスがちゃんと取れているのかどうか。利益を出す為に買った投資物件も金喰い虫の設備で折角貯まったお金が吹き飛んでしまわないように注意が必要だ。

今の時代は年代を問わずひとり暮らしが多くなってきている。初めからシングルの人もいるし、離別や死別などで一人になる人もいる。

メディアで「一生賃貸暮らし」や「老後のひとり暮らし」を礼賛するような情報を目にすることがあるが少し違和感がある。私は、高齢者が訳あって引っ越しをしなければならなくなり、部屋探しの手伝いを経験したことがあるが並大抵なことではない。

大家さんが高齢者という理由で断ってくるのだ。表向きの理由とは別で本音では高齢者はリスクが大きいので貸せないという。例えば、孤独死になる可能性や、認知症が進んで誰も面倒見る人がいない事、また室内がゴミ屋敷にされてしまうなど様々な理由がある。

 

誰だって年をとるのだからもっと寛大な心で、と言ってみても他人事だから言えるのであって、当事者にとって切実な問題になれば無理に進めることもできない。

一般的な賃貸物件は、強力なコネが要るか、資金力が高い人でないとダメなどかなりハードルは高くなる。高齢者が一般的な賃貸住宅で住み替えをすることは難しいと考えておいた方が良い。

 

これは私の考えだが、都心から少し離れた地方では中古戸建てが安く手に入る。ローンを組んで購入し、リフォームしてから人に貸し出す。賃料からローンを返済して少し黒字になるようにして積み上げていく。5年に1回位の割合で修繕など大きな出費がある。目的は儲けることではないのでトントンになる位で継続して運営していく。ローンが終わる20年後くらいで仮に空き家になれば今度は自分の住まいとして考えれば良い。完全な所有権になるのでそこで自由に自分の生活を築けられる。

 

私の考えに賛同するかどうかは別にしても70歳以降の自分の住まいを考えておくなら50代にはどうしたいのか考えておかないといけないだろう。