こんにちは。

大好きな安城市の在宅医療に貢献したい!

日だまり訪問看護ステーション

看護師 山田万理です。

 

9月3日 

愛知県と安城市主催

衣浦東部広域連合共催の

総合防災訓練に参加しました。

訓練参加機関は100機関で

愛知県警、自衛隊、気象庁、電力会社

医療福祉介護に関わる団体や

スギ薬局、マキタなどの地元産業まで

参加総数は1000人を超えました。

 

私は一般社団法人日本ALS協会

愛知県支部から要請を受けて

実動訓練のアシスタントをしました。

 

グランドに倒壊建物が造設され

ALS患者が閉じ込められて

救助犬が捜索して

レスキュー隊が救出する本格的な訓練でした。

模擬患者ではなく

実際にALS患者として生きている

藤田美佳子さんとご主人が参加されました。

 

藤田美佳子さんはバリスタとして

カフェに勤務していました。

2015年頃から手の動かしづらさを自覚して

17年6月にALSと診断され

現在は指がわずかに動きますが

両腕を持ち上げたりはできません。

それでも週2~3日バリスタとして

カフェ勤務しています。

 

外出もままならないのにどうやって?

 

それは分身ロボットを遠隔操作することで

可能なのです。

 

藤田さんいわくカフェ店員は

自分のような身体的な障害や

人と関わることが困難な精神的な障害だったり

外国に嫁いで物理的な距離の障害だったり

様々な環境に置かれているそうです。

 

分身ロボットを開発した吉藤オリィさんは

不登校の経験があります。

「自分の代わりに学校に行ってくれる

分身がいたらいいな」がきっかけで

『難病や障害で外に出たくても出られない人が

孤独にならないように

社会参加できる仕組みを作りたい』と

制作を開始したそうです。

 

人は誰でも少なからず

誰かの役に立つ人間でありたい

社会に貢献したいと思って生きていて

病気や障害を抱えて

生きている意味が見いだせない時

働いていることの実感は

心の拠り所になり重しを軽くしてくれて

『私は私のまま生きていいんだ』と

自分の存在を愛おしく思える

きっかけになるはず。

 

分身ロボットは

手足がまったく動かなくなっても

視線の動きでパソコンに文字を入力して

遠隔操作できる仕組みになっていて

気管切開などでいつか声を失う日が来ても

AI音声合成技術を活用して

その人の声で接客できるように

プログラミングされています。

 

吉藤オリィさんの取り組みは素晴らしく

不登校の経験は吉藤さんの人生で

必然だったのではないかと思います。

消えてしまいたいと思って苦しかった

私の社会不適応の経験と同じように。

 

 

 

 

 

今すごくつらくて生きづらさを感じていても

その経験が時間が経ってから

誰かを救うことになるかもしれない。

だからその場から逃げて

何としてでも生きて欲しいと切に願う。

 

 

 

 

さて、防災訓練に話を戻します。

 

ALS協会は防災啓発会場で

ダイヤグリーン人工呼吸器を装着して生活している

ALS患者さん2人が文字盤を用いて

コミュニケーションをとる様子を実演したり

ダイヤグリーン人工呼吸器の仕組みを説明する

在宅酸素業者がいたり

ダイヤグリーン停電などで人工呼吸器が作動しないときに

緊急処置として使用する

アンビューバッグ(蘇生バッグ)のレクチャーを

していました。

 

 ALS患者さんは胃ろうで栄養管理していて

喉が渇いたからといって

ガブガブ水を飲むことができません。

脱水や熱中症にならないように

細心の注意が必要です。

体温調整が難しいので

ネッククーラーを付けて

ポカリスエットを注入して塩分水分を

補給していました。

 

 

 

 

 

ALSの藤田さんが患者役をした

実動訓練のグラウンドは炎天下で

倒壊家屋の設定なので狭く暗く

換気が不十分でした。

体幹と下肢の残存機能はあっても

自力で座る立ち上がることができないので

かなりの負担がかかったと思います。

 

移動開始から救出して

救急車に乗り込むまでの所要時間は

20分程度でしたが

暑さとイレギュラーな体験のストレスからか

訓練終了後は血圧が190に上昇していました。

会話はできるし

受診するような異常はないとのことで

訓練後は空調管理された建物で過ごしました。

 

救護室が用意してくれた

冷却スプレーの使い心地が良かったです。  

 

 

  

 

 

訓練だったから終了時間が分かるし

停電していないから空調管理された建物に

避難できたのですが

実際の災害時を想定すると

避難場所に移動する方が生命維持の危機的状況に

陥るのではないかとヒヤッとしました。

 

 

 

 

災害の備えとして

ダイヤオレンジ緊急連絡網を作成して常時持ち歩くこと

ダイヤオレンジベッドや車椅子周辺に薬や

 医療処置と生活に必要な備蓄品を用意しておく

ダイヤオレンジ持ちだし物品のチェックリストを作成して

 定期点検しておく

ダイヤオレンジ在宅酸素や人工呼吸器を使っている場合は

 非常電源とアンビューバッグを確保しておく

ダイヤオレンジアクションカードを作成する

上記をお勧めします。

 

アクションカードというのは

自分の体がどのような状況で

どんな介助が必要か

かかりつけ医や訪問看護ステーション

関連する介護医療福祉の連絡先を

明記しておくことがポイントで

災害時の行動マニュアルのことを言います。

 

まずは身を守る

次にラジオやテレビで情報収集する

連絡網、伝言ダイヤルなどで

自身の安否を伝え家族の安否確認をする

避難するべきか判断する

避難開始

 

日頃から避難場所までの移動の練習をしたり

町内会の防災訓練に参加するなど

地域住民と繋がりを作っておくと良いでしょう。

 

ここで重要なのは

避難するべきか判断すること

 

防災訓練日は酷暑でした。

災害の種類によっては

療養環境を整備して

自宅避難が安全な場合があります。

 

『避難する』or『とどまる』

どちらの選択もできるように備えましょう。

 

非常用電源の確保は高価なため

補助をしている行政が多いです。

問い合わせて

人工呼吸器業者が推奨する正規品や

医療用の非常用携帯バッテリーを用意しましょう。

 

日だまり訪問看護が災害に備えて

常備している非常電源はこちら

下差し

 

 

 

 

 

 

 

 

 

涼しい場所で過ごしながら

藤田さんの想いをお聞きしました。

 

特別なことをしたいわけじゃない

主婦でありたい、母親をしたい

もっと頑張らなきゃと抱え込む夫が心配

娘に人生を楽しんで欲しい

ひとり時間にトラブルが起きたらどうしよう

自分がきっかけで家族が壊れてしまうかも・・・

大切な人の笑顔を守りたい

 

家族の負担を減らすのと安心のために

重度訪問介護を利用しています。

 

重度訪問介護というのは

介護保険サービスの訪問介護とは異なります。

障がい支援区分「4以上」で条件を満たす

肢体不自由や行動障がいがある人が

利用できるサービスです。

 

介護保険サービスの訪問介護と異なるのは

ケアマネジャーが設定したプランに縛られず

現場でその人に必要な総合的な支援を

長時間の支援で行うことができる点です。

 

条件が厳しいことや居住地区の行政によって

制度の理解がまちまちで

人員不足から対応している業者が少なくて

利用開始までに色々なところを往復して

会議を何回も開いて

ようやくサービス利用に至ったそうです。

 

「疲れちゃった…」

ぼそっと呟きました。

 

同じALSで藤田さんより症状が重度でも

他市に住んでいることで

利用開始に至らない患者さんもいて

自分が特別であることに

負担を感じているようでもありました。

 

障がい者がどこで生活していても

利用できるサービスに格差がなくなり

平等な世の中になることを願います。

 

 

 

 

 

藤田さんの娘さんは大学生で

世間一般にいう『ヤングケアラー』です。

 

多感な時期に母親がALSと診断されて

父親と一緒に母親を支える生活が始まりました。

心身のバランスを崩した時期もあったそうで

 娘に申し訳なくてね…

 もっと楽しんで生きていいのにね

 入学を機に家から出してあげればよかった

少しつらそうな表情をされました。

 

今日、娘さんはどうされてますか?

 

「今日はね友達とフェスに行ってる」

嬉しそうな表情は母親の顔でした。

子供の幸せは母親にとって生きる原動力です。

 

ヤングケアラーたちは毎日が必死で

自分の青春を介護や家事に

捧げていることに気づかず

自分の幸せはなんだろうと考えることが

できないかもしれない。

でも、介護を受ける側は

ヤングケアラーの幸せを願っている。

 

同年代の友達がうらやましいと感じたら

置かれている環境の違いや

友達が手にしている幸せに気づいた証拠。

でも決して

友達を妬んだり恨んだり

自分を卑屈にとらえないで欲しい。

 

自分もその幸せを手にする権利がある

そう信じて行動してほしい。

 

担任、養護教員、地域包括支援センター

市役所の介護保険課や障害福祉課

かかりつけ病院の医療福祉相談室に

自分の思いを話すことから始めてみようか。

 

 

 

 

 

防災訓練に参加したことで

気づきがたくさんありました。

 

ALS協会から参加要請があったのは

2年前に出会った

60代の利用者さんのおかげです。

トラックドライバーで全国各地を巡り

子煩悩で家族思いのKさんは

定年退職後は日本津々浦々を

奥さんを乗せて旅するのが夢でした。

 

定年退職間際に転ぶことが多くなり

受診したらALSと診断され

否定して欲しくて

セカンドオピニオンを受けて

とどめをさされてしまいました。

 

出会ったときは

どうせ動けなくなるんだから

リハビリなんて意味ないよ

家の風呂に入れんだったら

これから一生風呂に入らなくていいと

生きることに投げやりになっていました。

 

言葉が不明瞭になり

何度か聞き返す奥様に苛立ちをぶつけて

八つ当たりする自分に嫌悪感を持ち

悔し涙を流しても

動かなくなった両手では鼻をかむことも

零れる涙を拭き取ることもできず。

 

Kさんをどのように支えていこうか

スタッフで話し合いを重ね

研修に参加して知識を増やして

Kさんにフィードバックを続けたら

変化が現れました。

 

自分と同じ病気の人は

どうやって生活しているんだろう

 

Kさんが自分の病気に向き合って

逃げない覚悟を決めました。

その頃はコロナ禍で

3密を避けることが提唱されて

患者会の開催は中止されていました。

 

病状が急激に進行して不安が募るばかり。

 

そこで、日だまり訪問看護ステーションが

日本ALS協会の会員になって

得られる情報をKさんに

フィードバックすることにしました。

 

コミュニケーションツールや

利用できる社会資源、サービスなど

協会誌から得られる情報は多く

ALS患者さんの言葉や思いは

癒しや励ましになったようです。

 

受け入れたもののできれば

人工呼吸器や胃ろうをつけずに

ぽっくり逝きたいと

Kさんは願っていました。

 

胃ろう造設術を控えた数週間前の

朝食時に意識を失いました。

救急隊により気管内挿管されて

心臓マッサージとAEDを施行したものの

蘇生に至らず旅立ちました。

 

Kさんの人生に伴走したかったから

突然の別れが悲しかったしショックで

スタッフと号泣しました。

 

でもさ

思い通りの最期の迎え方をしたよね

学んだことをこれからの看護に

活かそうねと誓って

気持ちを切り替えました。

 

 

 

 

防災訓練に参加して

学びを深めることができたのは

Kさんのおかげです。

真っ青な空を眺めて

Kさんとのやり取りを思い返していました。

希望の光だったお孫さんは

大きくなっただろうな。

 

頂いたご縁を活かして

小さな幸せ今あるいのちに感謝しながら

自分らしく生きて行こうと思う。

 

 

それでは今日はこの辺で。

最後までお読み頂き

ありがとうございました。