こんばんは。

大好きな安城市の在宅医療に貢献したい!

日だまり訪問看護ステーション

看護師 山田万理です。

 

人は誰しも大切な人を

傷つけたくないし守りたいと思っている。


在宅介護をしている方は

自分がしたことで大切な人に

苦痛を与えてしまったらどうしようと

プレッシャーを感じていると思う。

大切な人が余命宣告されていたらなおさら。

  



スポーツ万能で体調管理のために

血圧や体重、日々の出来事を記録する

筆マメな夫が

肺がんの診断をされたときには

すでに終末期で

手術、抗癌剤治療、放射線治療など

改善が期待できる治療法がなくて

精査中に不整脈が見つかり

ペースメーカーを入れて

身体障がい者認定をされた。

 

奥様は短期間に次から次へと起きる

アクシデントに適応できずにいました。

 

本人が退院したいと言ったとき

「私に介護は無理。

家に帰りたいなんて

ワガママを言わないでちょうだい」

そう思ったそうです。

 

昨年、息子さんががんで他界しました。

 

親を喪うと過去を失う

パートナーを喪うと今を失う

子供を喪うと未来を失う

 

未来を失った奥様は

近いうちにパートナーを喪います。

 

ご主人がすべての人生を送ってきて

失いたくない離れたくない気持ちでいっぱい。

そんななか

停電というアクシデントが起きて

パニックになって

在宅酸素の管理が上手くできず

結果、大切なご主人に呼吸困難という

死の恐怖を与えてしまいました。

 

奥様は余裕がない心に

罪悪感という重しがのっかって

苦しんでいました。

 

あれ? 

今日は山田さんが来る日だった?

もうこんな時間?

お昼ご飯食べるの忘れちゃった。

主人にも食べさせてないわ

私、何を買うって言って出かけたっけね?

店に着いて忘れちゃって戻って来た

 

停電事件後から奥様に

異変を感じるようになりました。



停電事件から8日後のこと。

3日ぶりに訪問した12月16日。

顔と体が浮腫んで

ゼーゼーと荒い呼吸をしていました。

動くと苦しくなるから

トイレに行く回数を減らすために

水分を控えていました。

 

奥様は

「今日こそはお風呂に入ってもらうわ。

山田さんが来てくれたんだから入るわよね」

と言います。

本人は

「今日風呂に入ったら逝ってしまう

迎えが来そうな気がする」

とごねます。

 

「熱、血圧、酸素飽和度を測って

いつも通りなら入りましょうか?」と

奥様をやんわりと牽制して測定しました。

 

自分のことは本人が一番分かっています。

奥様に負担をかけないように

精一杯の努力をしてきた彼が

今日は入れないというなら入らない方がいい。

 

発熱なし 血圧146/81 脈は56~108で不整脈

挿入しているペースメーカーは

頻脈を抑える設定はされていません)

酸素飽和度は酸素2リットル下で72%

奥様との会話のやり取りで

呼吸がさらに荒くなり

唇が青紫になってきました。

チアノーゼといって循環不良のサインです。

 

奥様は呼吸困難に応じて

酸素流量を調整することができないし

起き上がると苦しくなるから

じっと過ごしている本人も同じこと。

 

私、常々思っているのですが

すべての酸素濃縮器にリモコンで

流量調整できるようにするべきではないかと。

起き上がると苦しいのに

本体まで移動してスイッチで調整するのは

とてもつらいことだと思うし

さらに呼吸状態が悪化すると思う。

 

酸素飽和度が72%だったので

酸素流量を4リットルに増量して

安静を促しました。

 

この呼吸状態は肺がんの進行というより

急性心不全だろうと予測しました。

 

もしかして、薬飲んでいないんじゃ?

 

奥様は酸素の管理はできないけど

薬の管理くらいはできると仰ったので

お任せしていました。

残数をチェックするのは

奥様を疑うような行為な気がして

処方された時に手元に薬が何日分あるか

確認するだけでした。

 

幸いなことに一包化された薬の袋に

日付が印字されていて

いつ内服を忘れたかが分かり

管理しやすい状況でした。

 

「最近食事をするのを忘れてしまったり

食べたくないと言って

1日1~2食の日がありますが

お薬は飲めていますか?

残数を確認させてもらっていいですか?」

本人には安静を促しているので

奥様に聞きました。

 

「主人はちゃんと飲んでるって言ってるけど」

渡された薬袋を恐るおそる覗くと

 

やっぱり・・・

予感的中で5日前から内服していません。

 

利尿剤、降圧剤、抗凝固薬

鎮咳薬、去痰薬

心不全と肺がんの症状を

コントロールする薬を飲んでいなかったのです。

 

「あなた! 薬飲んでるって言ったじゃない。

飲んでないじゃない、嘘ついたの?」

奥様は涙目になっています。



病気が進行するにつれて

いつもできていたことが

時間がかかるようになったり

できなくなったり

少しずつ手放しが始まります。

 

自分で健康管理をしていたご主人が

毎日当たり前にしていたことが

できなくなっていることに

奥様は気づいていませんでした。

 

在宅でも点滴はできるし

在宅酸素も導入されているから

心不全の治療はできます。

かかりつけ医は循環器専門医です。

ただし、介護者にかなり負担がかかります。

 

停電事件後から情緒不安定な奥様は

私の顔を見るだけで涙が出てきて

不安だからずっとここにいて欲しいと

帰ろうとする私を引き留めるようになりました。

 

今の奥様の心理状況では

在宅で心不全治療をするのは

乗り越えられそうにありません。

市内に住む娘様に泊まり介護が可能か

どこまでのサポートができるか

相談することにしました。

 

12月は仕事が多忙で

娘様は義母の介護もしているので

泊まり介護は厳しい

救急搬送して欲しいと。

かかりつけ医に報告相談したところ

やはり救急搬送を指示されました。

 

本人が暮らし慣れた家で過ごしたいと願っても

サポート体制が整備されていなければ

難しいのです。


酸素を増やして30分安静にしても

酸素飽和度が82%から上がらない本人に

伝えました。

 

「奥様はこの前の停電後から

情緒不安定になっています。

家で過ごしたい気持ちはよーく分かりますが

奥様が感じている不安だとか罪悪感を

取り除かないと後に大きな傷跡を

残してしまいそうです。

 

今感じている呼吸困難は

急激に起きたし浮腫みを伴うので

がんの進行というより

心不全の悪化や肺炎のような気がします。

在宅でも治療はできますけど

モニターがないし異常の早期発見が難しいです。

何よりこれ以上奥様に

負担をかけるのは危険です。

短期間の入院で集中的に治療すれば

また在宅復帰が期待できます。

 

年越しとお正月はここで迎えましょう。

調子が良くなったら

家に帰らせてくれって声にしてください。

いつでも受け入れます。

今から救急車呼んでもいいですか?」

 

本人の気持ちを聞きました。

 

「救急車を呼んでくれ。

もう頑張れん。無理だ」

 

奥様に負担をかけない努力をしても

奥様を守れないことに本人も苦しんでいました。

 

あの時ああしておけば

あんなこと言わなければと後悔するような

アクシデントが起きると

大切な人を喪った家族の未来に傷跡を残します。

 

救急車を要請しました。

 

救急隊員が

「出発します。同乗される方~」と

声をかけているのに

奥様が見当たりません。

数分後、海外旅行に行くのかというほどの

大荷物を持って出てきました。

 

財布、家の鍵、スマホ、

本人のお薬手帳と診察券

保険証があれば大丈夫だと言っても

離さないので

隊員が救急車に運んでくれました。

 



救急搬送から11日後の12月27日

暮らし慣れた家に帰って来ました。

 

驚くべきことにトイレ歩行する機能を

維持していました。

「私、オムツ交換なんてできないわよ」

奥様は死期を予感させるご主人の変化が怖くて

介護の不安を口にしていました。

 

退院後は奥様の介護負担を軽くするために

訪問入浴を利用して

お薬は曜日と用法を明記した小袋に入れて

お薬カレンダーにセットして

飲み忘れ防止をしました。

 

訪問看護の主な役割は

緩和ケアと看取り教育です。

 

1月10日

「寝てばっかりいるし

食べたいと言ったものを用意しても

ちっとも食べてくれない」と

肩を落とす奥様がいました。

 

歩けなくなったらどうしよう・・・

なんで食べてくれないの?

 

奥様にとって死を予感させる

病気の進行や体の変化は恐怖でした。

だから歩行訓練することや

食事の時くらいはベッドから離れて

ダイニングに移動すること

食事をしっかり食べるようにと

檄を飛ばしていました。

 

病気の病期(ステージ)を

理解して頂かなければ

転倒やケガを避けれない

残された時間が苦行の日々になってしまう

そう思い奥様に話しました。

 

「とても心苦しいことをお伝えします。

終末期にこんなに頑張る人に

初めてお会いしました。

ご自慢の旦那さんの生き様は

本当にカッコいいと思います。

奥様に負担をかけないように

涙ぐましい努力をされています。

 

受け止めるのはツラいと思うけど

残された時間はもうわずかです。

これからは眠っている時間が長くなって

お話ができなくなります。

コメダの味噌カツサンドも

ミニストップのソフトクリームも

食べれなくなります。

 

奥様のどんな気持ちも受け止めるし

不安ならいつでも駆けつけるから

お願いだから今からは

頑張れって言わないで欲しいです」

 

 

「もう長くないんだね・・・

先生言ってたもんね。

年越しはできても桜は厳しいって。

お正月過ぎちゃった」

嗚咽をあげて泣く奥様をハグして

背中をさすりました。


目を閉じていたし

補聴器はつけていなかったから

本人は聞こえなかったかもしれない。

 

その日から

奥様の気持ちが切り替わりました。

 

「さっき尿器でおしっこしたよ」

「オムツにちょこっと出とったで替えたよ

うまくできとるか知らんよ」

「山田さん今度いつ来るって

何度も聞くから今日が過ぎたら

カレンダーに印をつけることにした」

 

オムツ交換なんてできないと言って

変化に恐怖を感じていた奥様が

今自分にできることをしていました。

檄を飛ばすこともなく

「顔が穏やかだね。

苦しんでないよね」と言います。

 

 

「私、山田さんが大好き。

顔見るとホッとして涙が出てくる。

だから許してね」

子供のように泣きじゃくる奥様を

どんな気持ちも受け止めると約束したので

涙が引っ込むまでハグしました。

 

私の人生目標は

あなたに会うとほっとする

元気になれると思ってもらえるような

癒しや勇気を与える人になること。


奥様から頂いた光栄な言葉の数々は

私の財産になりました。

 

奥様はゆっくりと

近い未来に訪れる大切な人の死を

受け入れていきました。

 

1月19日

テレビを観るときのくつろいだスタイルで

最期の時を迎えました。

愛する妻のそばで夢心地なままに。

 



グリーフケアのために訪問した日のこと。

「おとうさん夢に出てきてくれないの

なのに友達が

昨日夢にあんたのご主人が出て来た

って言うから寂しくなっちゃった。

主人がね、私のことをよろしく頼むって

友達に言ったんだって。

涙って枯れることがないね

毎日、朝晩お経を上げるたびに泣いてる」

 

奥様の夢にご主人が出てこないのは

心配で奥様の後ろを

ついて回っているからじゃないかな。

 

思い出が美しくて眩しくて

目に沁みるから

涙が止まらないけど

涙が哀しみ、寂しさ、悔しさを洗い流して

愛しさだけが残る頃には

心の引き出しに

思い出がすっぽり入って

自由に出し入れできるようになる。

愛された思い出が

残りの人生を支えてくれる。

 

あれから6か月が過ぎて

奥様の涙は引っ込んだだろうか。

 

記憶の中で

ずっと二人は生きていけるから

涙が出なくなっても

ご飯を美味しく食べれるようになっても

笑えるようになっても

罪悪感を持たなくていい。

忘れてしまったわけじゃない。

 

先日、奥様が誰かと

楽しそうにおしゃべりしているのを

通りすがりに見かけました。

 

おてんば娘が年を重ねたような奥様を

空から見守っているご主人が

そろそろ夢に出てくるんじゃないかな。

先に息子に会いに行って

積もる話をして酒を交わして

2人で見守ると言っていたから。

 

奥様は安心して

これからの毎日を過ごせばいい。

でも泣きたくなったり

自分らしくないな

生きてるのがつらいなと思ったら

連絡してください。

奥様から光栄な言葉の数々を頂きました。

恩返しさせてくださいね。

 

  


大切な人を守りたいという

思いだけが支えで

いばらの道を

綱渡りで生きている人がいます。

そういう人は

人差し指1本で突いただけで

コースアウトしてしまう。

 

言葉は時にナイフよりも鋭く

刺さることがある。

深い傷は長い時間と

愛ある言葉のシャワーしか癒せない。

 

一緒にご飯を食べよう

何かあった? 話を聞かせて

そばにいるから安心して少し眠るといいよ

大丈夫だよ

あなたはあなたのままでいい

 

『自分が発した言葉は

そっくりそのまま自分に返ってくるから

優しくて温かい言葉を使おうね』

世界一大好きなじいちゃんが言った。

私はじいちゃんとの約束を

これからもずっと守り続けます。

 

『言葉でも

暴力ふるっちゃいけないよ』

息子が小学生の時に作った標語です。

 

じいちゃんとの約束は

息子に受け継がれている。

自分が言われたら嫌なことは

人に言ってはいけない。

人にやさしく

自分にはもっと優しく生きて行こう。

 

 

 

それでは今日はこの辺で。

最後までお読み頂き

ありがとうございました。