Brother Sun, Sister Moon -33ページ目

Brother Sun, Sister Moon

駄小説のたまり場。

セミ・ノンフィクションの子供達。

やがてコースは1号上野線との分岐に差し掛かかり、俺は迷わず5号線へのショートカットである八重洲線へと進路を選ぶ。

八重洲トンネルの入り口に差し掛かった時、猛スピードで近づく1台のタクシーに気が付いた。

恐らく帰庫を急いでいるのだろう。猛然と俺のテールに食らいついたそいつは、さらに車間を詰めてくる。そして執拗なパッシング。
なんとか進路を譲ってやりたいのだが、超過速度による事故防止目的のため、シケイン形状に設計されたトンネルの入り口には、そんなスペースはない。

タクシーはさらに車間を詰めてくる。もうルームミラー越しに相手のフロントグリルも見えない。ドライバーの表情まで確認できる程度の距離だ。
後方からの威圧感にルームミラーを覗き込んだ時、ドライバーの口唇の動きが見て取れた。

『早くどきやがれ。このクズ車。』


その時、俺の中でなにかが弾けた。

5速から一気に3速に落とし、アクセルを踏み抜く。
フルタイム4WDの四肢から、ホイルスピンの狼煙を上げつつ「相棒」は猛然とダッシュする。そして後続のタクシーはミラーの中の点となっていく。

レブリミットから4速へシフトアップ。そしてフロアいっぱいに、アクセルを踏み込んだその瞬間。

猛々しい再加速を見せるはずの相棒は、脚を斬られたアキレスよろしく、みるみるうちに脱力し、今はもうおぞましいばかりの異音をかき鳴らしつつ前へ進む力を慣性に委ねきっている。

堪らずハザードを点灯させ、トンネル内の僅かな路肩へと「相棒」を横付けした時、くだんのタクシーが真横をすり抜けていった。

すでにエンジンも停止し、その屍のみを水銀灯の元に晒す我が「相棒」。
映画やTVドラマの様に、派手なスピンもなければ、爆発音もなし。

量産型ノーマルエンジンを、2.5リッターまでボアアップし、タービンの圧縮比をぎりぎりまで高めた相棒の心臓は突然、糸が切れるようにふっつりと息絶えてしまった。

絶望感とともにエンジンルームを覗き込む。
一見、何事もない様に見える。が、ヘッドカバーが破損し、オイルが噴き出している。
恐らく、オーバーレブによる過燃焼により、ピストンがシリンダーヘッドを叩いたのだろう。

致命傷。

その3文字が脳裏に浮かんだ時、俺の中の一つの「時代」が終わりを告げた。

-続く-