それは、首都高から始まった。
その朝、俺は客先での徹夜絡みの仕事を終え、疲労で重くなった目蓋を押さえながら、混み合うにはまだ早い首都高速を走っていた。
愛車、三菱ギャランVR4。
かつて、WRCの王者であった三菱がその王冠を奪取すべく投入した、ラリーの為のファイティングマシン。そのホモロゲーション(量産型)モデルである。
当時、「流面形デザイン」がもてはやされ、国産車のほとんどが「かっとぶ卵」化していく中にあって、その無骨かつ流麗なカーブを持つデザインは、並み居るBMWやメルセデスを差し置き、「究極のナンパ車」と称された程。しかし一度エンジンに火を入れるや、インタークーラー・ターボがビルトインされた、三菱伝統の4気筒ツインカムエンジンは最大240馬力を叩き出す。まるで「背中をどつかれた」様なその加速感は、昨今のソフィスティケイトされたターボ搭載車では味わえないものだ。
愛車を「恋人」や「女性」に例える話を良く聞くが、俺にとってこいつは彼女なんかではない。あまたのバトルとサーキットランを共にしてきた、「相棒」であり「兄弟」だ。
首都高・横羽線から都心環状線を経由し、5号線を目指す。
時折、荷下ろしを急ぐ大小のトラックが、左車線から強引に俺を追い抜いていく。
普段なら、このやろう、とばかりに追い回し、きわどいテール・トゥ・ノーズからぶち抜き返すところなのだが、今の俺は、もうそんなことなどどうでも良い位に疲れ切っていた。
また1台、そしてまた1台と後続車が俺を追い越していく。中には追い抜き様、明らかに憎悪のこもった視線を投げてくるドライバーもいる。
『抜け。抜け。このやろう。そうしてフェンスに刺さって死んでしまえ。』
ふと厭世的な感情が沸いて出て、ひとり自嘲気味に鼻を鳴らす。
決してのろくさ走っている訳ではない。
メーター読みで、法定速度プラス30。しかし、まだ明けやらぬ首都高での流れには、明らかに邪魔な存在となっているらしい。
襲い来るマイクロスリープの衝動と戦いながら、俺は真っ正面を睨み付け、煙草に火を付けた。
ー続くー