翌日、俺は答えを決めかねぬまま、主治医のもとへ向かった。
工場の一隅にVR4は静かに佇んでいた。こうして見る分には、イグニションひと捻りで息を吹き返しそうに見える。
だが、彼のハートは完全に息絶えてしまっているのだ。
オブジェと化した「相棒」を前に立ちつくす俺へ、主治医が缶コーヒーを差し出した。
「決まったか?」
「可能性は?」
「全力は尽くすよ。でも約束はできない。」
この主語の全くない短いやりとりの間に俺の心は決まっていた。
向き直った俺に主治医は言った。「良さそうなヤツ、みつくろっとくよ。」
この男はいつもそうだ。
俺の心を見透かしたように必ず先に答えを出してくる。
『そのうち、もっとマシな鉄クズに乗せてやっからな。』
酔うと必ず出る彼の口癖だ。
旧車のレストアが趣味である従兄弟の影響からか、俺は19の年に免許を取って以来、数々の「鉄クズ」と時を共にしてきた。
MGA、63年式ジャガー、コスモスポーツ、ホンダS800、リトモアバルト130TC、そしてフェラーリ308GTS・・・。
ラインナップとしては、同年代の人間がそうそう乗れるクルマ達ではない。
しかし、これらは全て解体工場から二束三文で買い取ってきた車台を、従兄弟と共にレストアしたものばかりだ。
中には腐食でボディに穴が空いていたり、雨の日に走っていて床下から鯨の潮吹きよろしく水を吹き上げたものまであった。
そうした車遍歴を経て、このVR4は通算16代目のクルマとなる。
そして、それらほとんどのメンテナンスを手掛けてきたこの男とのつきあいも、かれこれ10年になる。
彼自身、『ベレットGT』をこよなく愛し、今なお現役で乗り回している男だからこそ、「鉄クズ乗り」の心情の奥底で繋がっていると言っても過言ではないだろう。
俺は静かに「相棒」と向き合う。
今までよく走ってくれた。
俺の無茶な要求にも付き合ってくれた。
ドアノブに手を掛け、そっとドアを開ける。
車内の空気が、いつもより穏やかに感じた。
-続く-