Brother Sun, Sister Moon -28ページ目

Brother Sun, Sister Moon

駄小説のたまり場。

セミ・ノンフィクションの子供達。

俺は鳴り続ける携帯電話をじっと見つめ、グラスの中のマイヤーズラムを一口飲む。

電話からは、少しやつれ気味の主治医の声が聞こえてきた。

「みつかったよ。」
相変わらず唐突な会話の始まりだ。

「モノは?カミナリ(OPEL)?」
「いや、プロペラ(BMW)だ。」

前提として、ドイツ車限定で次のクルマを探させていた俺は、正直、フォルクスワーゲンではないことに安堵した。
いや、決してフォルクスワーゲンが嫌いな訳ではない。世の「車好き」の常として、全ての車が愛おしい。だが、自分の『相棒』となると話は別だ。そこには「想い」が必要なのだから。

「91年式のE30だ。少々歳は経ってるが、程度は悪くない。どうだ?」
BMW320i、1991年式。俺が提示した予算内では悪くない買い物だ。勿論、程度にもよるが。

「現物は?」
「浦和にある。試乗も可。行ってみるか?」
「ああ。手配頼む。」

通話が切れた後、肝心な点を聞き忘れたことに気付く。

走行距離は?
車体色は?
修復歴は?

まあ、いい。現物を見れば分かることだ。

安堵と不安を残りのラムで流し込み、俺は店を出た。


翌日、主治医のクルマで浦和に向かう。
JR浦和駅からほど近い、閑静な住宅街。大きな門扉と洒落たデザインの一戸建てが建ち並ぶ。

賢いな。ふとそう思う。
大なり小なり財を得た人間が、真っ先にこだわるもの。それが住まいだ。
大抵のそういう人種が、最寄りの「駅名」や「住所・番地」を気にするが、ここなら同じ金額で倍近い大きさの家が手に入る。

「実」を取るか、「見栄」を取るか。
ここの住人は、「実」を取り、広い庭とリビング、そして複数の高級車を手に入れる。そこには、見栄は存在しない。ただこの地を選択した結果生じた余剰予算で、一回り大きなモノを買っただけ。
そもそも、住所や駅なんて、自分のモノじゃない。他人のモノで見栄を張ってどうするのか?

俺はますます、ここの住人に会いたくなってきていた。
賢い、ここの住人に。

程なく、主治医のベレットは一軒の家の前で止まった。

豪邸。真っ先に思い付いた言葉。

俺はクルマの中から煉瓦色の屋敷を見上げながら、途中主治医から聞いたオーナーのプロフィールを思いだしていた。

「今日のBMWのオーナーさんはな、30代半ばの女性なんだ。或る医者の奥さんなんだが、数ヶ月前にダンナが他界してね。それで余分なモノは処分しようということらしい。」
「ふーん。」
「俺も初対面なんだが、紹介してくれたバイヤー仲間の話では相当キレイなヒトらしい。おまえ独身だったよな?」
「ああ。生憎な。」
「相手してやれ。クルマと一緒に。」

馬鹿な。この主治医は時折「世話焼きババア」のような亊を言い出す癖がある。

クルマを降り、主治医がインターフォンで家主を呼ぶ。
スピーカー越しに物腰の柔らかい声が聞こえた後、私道に面したガレージのシャッターが開き始めた。

ー続くー