シャッターは静かに上がっていく。
1/3程開いたところで、ガレージの様子が判ってくる。
中にはクルマが2台。1台はホイールサイズから判断するに、ミドルサイズのセダンだろう。
残るもう1台の方が、今日の「主役」。
そして、その2台の間から覗くサンダル履きの網タイツ。この脚の持ち主も、或る意味、今日の「主役」だ。
シャッターはさらに上がっていく。2つの「主役」の姿がよりはっきり見えてくる。
シャッターが全開した。
ワタシの横で、主治医が息をのむ様子が伝わる。
そこには、鏡のように磨かれたAMGとBMW、そして美しい女性が立っていた。
「初めまして。」
『彼女』は微笑みながら俺を見つめる。
きっと、自分のクルマの次期オーナーに興味があるのだろう。
セミロングの髪に、白いブラウス。黒のタイトスカートに目の細かめの網タイツ。
ごく普通の服装の様だが、どことなく上品さと高級感が漂っている。それなのに、足許がサンダルと言うのが可笑しかった。
主治医が簡単に俺を紹介した後、『彼女』はガレージへと我々を導く。
ガレージ内のスポットライトに照らし出される2台のクルマ。
1台は「AMG C-32」。これが多分、亡くなったご主人の愛車なんだろう。
そしてその隣に、今日の「主役」が居た。
BMW320i-Mテクニック。しかも希少な4ドアだ。
磨かれた紺色の車体は、傍らに立つ『彼女』を映し出している。
「コンクール・デレガンスだな、こりゃ。」嬉しそうに主治医が呟く。
俺は無言で320の周りを一周する。
見た目は申し分ない。主治医が言うように、このままコンクールにも出品できるくらいだ。
だが、クルマというものは、エンジンに火を入れてみるまで判らない。
『彼女』は壁のキーボックスから一本のキーを取り出し、俺に手渡した。
「試乗、どうぞ。」
俺は黙ってキーを受け取り、320に乗り込む。
内装の状態も申し分ない。勿論、年式相応にヤレている箇所もあるが、ドライビングには全く支障はない。
「これは、貴女の?」
「ええ。私の普段の足として主人が買ってくれたんですが、どちらかというと、主人のセカンドカーになっていました。」
少し照れくさそうに『彼女』が答える。
キーを差し込み、イグニションを回す。
0.5秒のセルリングののち、6気筒エンジンが目覚めた。
異音、なし。
不正振動、なし。
上等だ。
俺はゆっくりと、新しい「相棒」とともにガレージから進み出た。
ー続くー