Brother Sun, Sister Moon -24ページ目

Brother Sun, Sister Moon

駄小説のたまり場。

セミ・ノンフィクションの子供達。

翌日、俺は主治医を通し正式に320の購入意志を『彼女』に伝えた。

その後、車庫証明や名義変更等の手続きがあり、その都度、俺は『彼女』に連絡をした。
『彼女』は「ありがとうございます。」と相変わらず礼儀正しかった。

最終的な名義変更にはナンバーの再取得が必要になる。大宮の陸運局から練馬の陸運局へ、登録を移管するからだ。現車を陸運局に持ち込み、旧いナンバープレートを返還し、職員立ち会いのもと、新しいナンバープレートを取り付ける。

俺は久しぶりに『彼女』に会うため、浦和に向かった。
そして晴れて今日から320は俺の相棒となるのだ。

玄関口に現れた『彼女』は、やはり美しかった。
ほんの少しの世間話のあと、320に乗り込もうとしたとき、『彼女』はボンネットに触れながら、小さな声で「さよなら。」と言った。

この320は、亡くなったご主人の想い出。形見のひとつでもある。
名残惜しいのは当然だ。

「大切にしますよ。約束する。」俺は宣言した。『彼女』がとても愛おしく感じたからだ。
「ありがとう。」と微笑みながら『彼女』は答えた。

その夜、俺は『彼女』に電話をし、無事にナンバー取得が完了したこと、自賠責保険の書き換えにはあと数日必要なことを伝えた。クルマの事には疎いので、全てお任せします、とだけ『彼女』は言った。

では、と言い電話を切ろうとしたとき、「よろしければ、食事でもいかがですか?」という『彼女』からの誘いを俺は聞いた。断る理由もない。俺はその誘いを快諾した。俺自身、これで『彼女』と会う名目が無くなってしまう事を残念に感じていたのだから。

2時間後、俺は『彼女』の家のリビングにいた。
食事の支度が整うまで、くつろいでいて下さいね、と嬉しそうに『彼女』が言う。

恐らく、ご主人が亡くなってから、殆ど来客は無かったに違いない。
久しぶりの賓客に対し、料理の腕を振るえることが純粋に嬉しい、そんな表情だった。

彼女が奨めてくれたビールグラスを片手に、今いる部屋を見回した。
リビングは広く、そして上品にまとめられている。ここにある家具や調度品は、どれも高価なものばかりなのだろうが、全く嫌味がない。フリーライターという仕事柄、今まで多くの「金持ち」の家を訪問する機会を得てきたが、その中でも最も上品で居心地の良い部屋だった。

だが、何故か落ち着かない。どこかから誰かの視線を感じるような気がする。<借りてきた猫>というフレーズが不意に浮かび、思わずひとり苦笑した。

「どうしたの?」その声に振り向くと、『彼女』の美しい顔がすぐそばにあった。
「思い出し笑い。」少し恥ずかしくなり、俺は苦笑いをしながら答えた。

『彼女』の作る食事は素晴らしかった。決して豪華絢爛な食卓ではなかったが、食器や盛りつけに気配りがある。普段、外食オンリーの食生活を送る俺にとって、手作りの食事は、ほんとうに美味しかった。

「食事が終わったら、お酒を付き合って貰えますか?」
あらかた食事が終わる頃、『彼女』が提案した。ここへはクルマで来ている。帰りの事が気になったが、俺はその提案を承諾した。

-続く-