Brother Sun, Sister Moon -23ページ目

Brother Sun, Sister Moon

駄小説のたまり場。

セミ・ノンフィクションの子供達。

食事を終えた俺達は、かつてこの家の主人だった人物の自室にいた。
そこは、6畳ほどの部屋だったが、その普通の広さに俺の心は落ち着いた。

落ち着く理由は他にもある。
その部屋はガレージと地続きの位置にあり、壁に設えられた大きな窓からガレージが見渡せるのだ。
スポットライトに照らされた、2台のクルマ。

「主人は食後の時間を、ここで過ごすのが好きでした。」『彼女』が言う。
「ここも近々整理しなくちゃならないと思ってるんですが、なかなか手が付かなくて。」少し照れたような、困ったような笑みを浮かべる。

「ここはこのままで良いのではないですか?ご主人の帰る場所を残してあげるべきかもしれない。」
本心からそう思った。

『彼女』は暫く俺の目を見つめたあと「ありがとう。」と言った。

どのくらい時間が経ったのだろう。とりとめのない話と、時折、故人の思い出を語りながら、俺と『彼女』は静かに酔っていった。

時計を見る。もう深夜に近い時間。そろそろここを辞する頃合いだ。帰りの運転のこともある。どこかで酔いをさまさなければならないだろう。

今夜の食事と酒の礼を言い、立ち上がろうとしたとき、『彼女』が俺の腕を掴んだ。意外にも強いその力に俺は驚いた。なんらかの意志が込められているような気がした。

『彼女』は何も言わず、そのまま俺を引き寄せ、抱きしめる。
俺は困惑した。この歳まで、確かに何人かの女を抱いてきた。しかし、女に抱きしめられる経験は一度も無い。

「お願い。」ただそれだけの言葉で、俺はその意志を理解した。
そしてその意志に応えるため、俺も『彼女』を抱きしめた。

『彼女』の唇から、溜息とも吐息ともつかない、かすかな声が漏れる。
そしてその唇は、俺の唇を求めて彷徨う。俺は薄く紅の引かれた『彼女』の唇に、行き場を与えた。

長いキスのあと、俺達はしばらく沈黙したまま抱き合っていた。時折どちらともなく、相手の唇を求める。『彼女』は俺の肩に顔をうずめ動かない。不意に子守唄を歌ってあげたくなったが、貧粗な俺の脳には、子守唄のレパートリーは用意されていなかった。

やがて『彼女』は俺の手を握り、促すように立ち上がった。

導かれた部屋には、大きなベッドがあった。
その心地よさそうなベッドを見た瞬間、俺は少し気後れする。その気配を感じたのか『彼女』が再び抱きついてきた。先刻よりも強く。なにかの堰が切れたかのようだった。

ベッドに倒れ込むと、お互いの着衣を脱がしあい、また抱き合う。
『彼女』の唇は、俺の身体の隅々を彷徨い、そして、俺をその中に受け入れた。

俺も『彼女』の身体を求め、その隅々までを愛撫する。
その都度『彼女』の唇からは、荒々しい吐息とともに嗚咽にも近い声が溢れた。

俺が果てたあとも、『彼女』は何度も俺を求めた。俺も『彼女』を求め続けた。
俺の身体の一部分が、『彼女』の体温を直に感じることに、心からの幸福を味わっていた。

何度目かの極みのあと、『彼女』が俺の耳元に囁く。

「私、もう<奥さん>じゃない。」

俺は、『彼女』を抱きしめた。

ー続くー