獏は夢を喰らうだけじゃない。
人の悩みや辛さをも、飲み込みます。
獏は獏に産まれたかった訳じゃない。
でも、与えられた使命を投げ出せないことを知っています。
そして。
獏は、そんな自分が嫌いじゃない。
だから獏は願うのです。
みんなが、笑顔たくさんの明日を送れますように、と。
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ワタシは夢を見ていた。
正確に言えば、夢の中でさらに「夢」を見ていた。
その夢は、良いものとは言い難かったけれど、決して不愉快な夢ではなかったように覚えている。
すると、そこへ一頭の「獏」が現れ、ワタシの夢を端からむしゃむしゃと食べ始めた。
その獏は、小振りのカバのような格好をしていて、美味しそうに夢を食べ続ける。
彼が食べる私の夢は、なんだか紙のように2次元的で、平べったいものだった。
へぇ。夢って平たいんだ、と変に感心しながらも、このままでは、ワタシ自身が彼の胃袋の中に消えてしまいそうな不安を覚え、堪らず声をかけた。
「どうして勝手に夢を食うの?」
獏は夢を食べるのを止め、ワタシに言った。
「美味しいからです。」
「いくら美味しいと言ったって、勝手に他人の夢に現れて食べちゃうのは、どうかなぁ。」
「生きるためです。」
獏はきらきら光る小さな眼でワタシをじっと見ながら言った。
「ボクと、あなたが生きるためです。」
君とワタシが?
「君が夢を主食にしているのは知っているよ。でも、どうしてワタシが生きるために夢を食われなくちゃいけないんだい?」
獏は一歩だけワタシに近づき、ひそひそ声で言う。
「この夢はあなたの『後悔』だからです。」
「後悔の夢?そんなに不愉快な夢じゃなかったけど。」
「でも、現にあなたは泣いていた。」
思わず頬を触ると、そこは涙で濡れていた。
「ね。だから僕が食べちゃうんです。」
一度にっこり笑うと、獏はまたワタシの夢をむしゃむしゃと食べ始めた。
獏の笑顔は初めて見たな・・・そう思いながら、ワタシは黙って彼が夢を食べ続けるのを眺めていた。
残り3分の1程食べたところで、獏は食事を止めた。
「おなかいっぱい。」
彼は満足げにそう言うと、ゴロンと横になり、短い手足で、軽く伸びをした。
「残りは?」
ワタシが訊ねると獏は、
「あとは、あなたの取り分です。」と言った。
「そこのあなたの取り分は、明日まで持ってって下さいね。」
獏はそう言うと、ごちそうさまでした、と言いつつ姿を消した。
ワタシは彼の歯形の残る、「夢の残り」を見る。
そこには、大勢の友人に囲まれ、嬉しそうに笑うワタシがいた。
笑顔がいっぱいの、「夢の残り」。
獏の笑顔は初めてだ。でも、そう悪いものでもない。
そう思った。
次の瞬間ワタシは眠りから目覚めていた。
時刻は明け方で、奇麗な朝焼けが今日の快晴を教えてくれている。
「獏、かぁ。」
そう独り言を言いながらも、この朝焼けが後悔をひとつだけ消してくれたような感じがしていた。