「眠るおんな」

 

 

 

ある日

揺れるように倒れ 目覚めなかった少女がおりました。

 

 

あらゆる病院 高名な医師も原因を突き止める事が

出来ません。

家族が毎日のように呼びかけましたが

目覚める事はなく 長い年月が流れてゆきました。

 

 

一度も目覚めることなく 少女は

眠ったまま年を重ね

少女から女性へと移り変わってゆきました。


不思議なことに

少女の顔はお化粧でもしたかのようにうっすらと頬が赤らんだり

ある日には 眉間に皺をよせた憂い顔に見える事もあり

「泣いていた?」

「微笑んでいたわ」と 看護師たちが噂する日もありました。

 

 

 

 

 

年月は流れ

 

眠る女性の顔にも老いが浮かび

真っ白な病室を訪れる家族も少なくなってきた ある春の日

 

いつものように 

「おはよう」と声をかけながら

病室に入って来た看護師は

女性の目が開いていることに気がつき

驚きのあまりその場にペタリと

座り込んでしまい 

声も出ませんでした。

 

ベッドの上の今は年輩となった女性は

天井を見上げたまま 

ゆっくりと目をしばたたかせ

 

「あ~私 今 死んでしまったのね」

 

とかすれた声で呟き 大きな息を吐いて

そのまま息絶えてしまったのでした。

 

 

 

 

少女は 

眠りの中の世界で

その人生を一生懸命生きた

恋をして受験も就職も結婚も何もかも

笑ったり怒ったりしながら 

生きたのかもしれません。

 

夢の中で人生の終わりを迎えた時

この世界で目覚め 

その体も死んでしまった

そういうことだったのかもしれませんね、

本当のことは誰にも分らないまま

少女のことは静かに忘れられてゆきました。

 






 

 

きっと夢の中で素敵な一生を過ごしたのでしょう

だって頬が赤く染まったり微笑んでいるような日がいっぱいあったと

看護師たちが話していたのですから。

 


おわり