月が綺麗ですね のお話し

 

 

隣を歩く男性に

密かに心ときめいていることは

誰にも知られてはならない秘密です。

 

彼は私よりだいぶ年下の 

もの静かな人です

そして、

お似合いの可愛らしい女性ともうすぐ

恋人になるであろうことも知っています。

 

私もその優しい女性が好きです

だから、

私が彼に恋心を抱いていることは 

知られてはならないのです。

 

 

 

言葉も交わさず歩いていても

少しも気まずさを感じることなく 

同じ空間を共有できる

数少ない存在です。

 

でも、

こんな風に二人で歩くのは

止めなければならないと思っています。

 

 

 

 

「月が綺麗ですね」

私は輝く月を見上げて 

そう口に出してみました。

 

「そうですね、こんなに大きな月は

あまり見た事ないなぁ」

無邪気にそう言う彼。

 

漱石の逸話「I Love You」

愛する人に最後に伝えてお別れです。

 

 

 

木の枝にかかった月だけが

私の淡い恋の終りを見届けて

くれたのでした。

 

 

 

 

 


夏目漱石が英語教師をしていた時に

生徒のひとりが

ILoveYou我汝を愛す

と訳したのを

日本人はそんな事を言わないだろう 

月が綺麗ですね 

くらいにしておきたまえ

と言ったという逸話を思い出しながら

 

図書館の帰り道

川沿いを歩きながら考えたお話です。