雪でも降りそうな、ある寒い冬の日……

駅のホームに降り立った私は、手に持っていたボストンバッグを肩にかけた。

もう片方の手には、両親から渡されたお土産の袋がいくつも握られている。

(荷物になるから、こんなにいらないって言ったのに、お父さんもお母さんもしょうがないなぁ……)

そんな風に思いながらも、どこか嬉しい気持ちで、ホームから改札へと続くエスカレーターに乗り込む。

私が法事で実家に帰ったのは一昨日のこと。

法事も無事に終わり、実家でのんびり過ごしていた私に、まさかのグンソクさんから日本に来たという連絡が届いたのは今朝のことだった。

本当はもう少し実家に滞在する予定だったけど、せっかく日本に来てくれたグンソクさんに会うため私は早めに帰ってきたのだった。

(グンソクさん待ってるかな……)

久しぶりに会える嬉しさに胸を踊らせながら、私は急いで改札へと向かった。

するとその改札口の先に……いるはずのない人が立っていた。

(え?!嘘?!グンソクさん?!)

そう。そこには笑顔でこっちに大きく手を振るグンソクさんがいたのだ。

(な、何で?!家で待ってて言ったのに、何でここにいるの?)

疑問に思いながらも、私も思わず笑顔で小さく手を振る。

そして慌てて改札口を通り抜けたところで、久しぶりに会うグンソクさんが優しい笑顔を私に向けた。

「おかえり、〇〇。」

「た、ただいま……あの、グンソクさん……」

「あぁ、わかってるよ。何でここにいるのって言いたいんでしょ?」

「そ、そうですよ!家で待っててって言ったのに……」

「うん。何でだと思う?」

「何でって……」

私はしばらく考えたあと、その答えを自分で言うのも恥ずかしかったが、小さな声で答えてみる。

「わ、私に早く、会いたかったから……?」

するとグンソクさんは、満面の笑みで私の頭をポンと撫でた。

「正解!」

「せ、正解って……」

「だって、しょうがないじゃん。1分1秒でも早く、〇〇に会いたかったんだもん。」

そう言いながらグンソクさんは私のボストンバッグを持つと、空いた手をギュッと握りしめた。

「でも、ごめんな。せっかく実家に帰ってたのに、こっちに早く戻って来させちゃって……」

「ううん、大丈夫。今、日本にいるって電話がかかってきたときは、びっくりしましたけどね。」

「お父さんとお母さんは?元気にしてた?」

「あ、はい。グンソクさんに、またいつでもうちに遊びに来てねって伝えてって言ってましたよ。」

「ほんと?嬉しいな~。じゃあ、今年の節分のときにでも、また行っちゃおうかな?」

「ふふっ、懐かしいですね。また、みんなで豆まきやりますか?」

「うん、やるやる!鬼はどこ~ってね。」

「だからそれ、鬼は外ですよ。グンソクさん覚える気ないですよね。」

クスクス笑っていると、グンソクさんは繋いだ手をそっと引き寄せた。

「寒いからそろそろ行こうか。あ、お腹すいてる?どこかで何か食べるか?それとも俺が、〇〇が食べたいもの作ってあげようか?」

「え?グンソクさんが作ってくれるの?」

「うん、もちろん。何がいい?」

「えっと、じゃあ……寒いから、お鍋とか……」

「お、いいね!じゃあ、チゲ鍋とかどう?」

「う、うん。食べたい!」

「よし。じゃあ材料買って早く帰ろう。」

グンソクさんは笑顔でそう言うと、私の手を引いたまま足早に歩き出した。



買い物を終えてグンソクさんの家に帰宅した私たちは、買ってきた材料をキッチンに置くと、すぐに暖房のスイッチを入れた。

「う~寒い!〇〇!早く俺を暖めて~」

そんなことを言いながら、コートを脱いでいた私にグンソクさんが抱きついてくる。

「ぐ、グンソクさん!すぐに部屋は暖まりますから、ちょっと待っててください。」

「ヤダ。待てない。寒い~」

「その前に、うがい手洗いをしてきてください。ちゃんとやらないと、インフルエンザになっちゃいますよ。」

「大丈夫だよ。俺、かかったことないもん。」

「ダメです。大事な体なんですから、ちゃんとしてきてください。」

「ちぇー。〇〇のケチ~。」

ブツブツ文句を言いながらも、グンソクさんはちゃんと洗面所に向かう。

その様子に思わず笑ってしまいながら、私はチゲ鍋を作る準備を始めた。

すると洗面所から戻ってきたグンソクさんが私を見て言った。

「あ、〇〇は座ってていいよ!俺が全部作るから。疲れてるだろ?」

「大丈夫ですよ。私もお手伝いします。」

「ダーメ。いいから座ってて。」

グンソクさんは私をキッチンから追い出すと、リビングのソファーに強引に座らせた。

「めちゃくちゃ美味しいチゲ鍋作ってあげるから待ってて。」

グンソクさんは笑顔でそう言うと、キッチンに戻っていく。

(な、なんか……今日のグンソクさん優し過ぎる気がするんだけど、気のせいかな……?)

なんとなくそんな風に思いながらも、私は大人しくソファーに座ってグンソクさんが料理を作る姿を見つめていた。



それから数十分後……

「ん~!すっごく美味しい!」

グンソクさんが作ってくれたチゲ鍋を食べながら、私は素直に感想を述べる。

「だろ?愛情いっぱい込めたから、うまいに決まってるし。」

自信満々にそんなことを言いながら、グンソクさんも自分で作ったチゲ鍋をパクリと食べる。

「うん、うまい!あ、そうだ。よかったら、俺が食べさせてやろうか?」

「ぶっ……!!」

グンソクさんの言葉に、私は飲んでいた烏龍茶を吹きそうになった。

「い、いいですよ!自分で食べれます!」

「遠慮しなくていいよ。ほら、アーンして❤」

グンソクさんは箸でお鍋の具を掴むと私の口元に運ぶ。

「ほ、ほんとに大丈夫ですから!」

「え~?せっかく俺が食べさせてあげるって言ってるのに?ほんとに?ほんとにいいの?」

「そ、それは……」

「ほら。アーン❤」

悶絶必至のかわいい笑顔で、グンソクさんの手作り料理をアーンされるという、うなぎさんであればキュン死確実のシチュエーションに、思わず私の思考回路も停止する。

(ああ無理……こんな笑顔で、こんなことされたら断れない……)

抵抗する意思をあっさりなくした私は、大人しくその箸からお鍋の具をパクリと食べた。

「おいしい?」

「……う、うん、おいしい……」

「よかった。あ、烏龍茶持ってくるから待ってて。」

私のグラスが空になっていることに気付いたグンソクさんは、飲み物を取りに颯爽とキッチンに向かう。

その様子を見て、私はさっき思ったことを再び感じていた。

(やっぱり今日のグンソクさん、いつもより優し過ぎる気がする……)

なんとなく気になった私は、飲み物を手に戻ってきたグンソクさんに声をかけた。

「あの……グンソクさん。」

「ん?」

「何かあったんですか?」

「何かって?」

「なんか今日のグンソクさん、いつもより優し過ぎる気がして……どうしたのかなって思って。」

「そう?俺はいつでも優しい男だけど?」

「そうですけど、なんか違いますよ。どうしたんですか?」

「……」

私の質問に、グンソクさんは黙ったまま空のグラスに烏龍茶を注いだ。

そしてボトルをテーブルに置くと、ちょっと言いにくそうに口を開く。

「去年の福岡空港のことなんだけど……」

「福岡空港?」

一瞬何のことかわからなかったが、ああ、あのことか……と、私も思い出した。

それは去年、福岡でCRI SHOW Ⅳの公演が行われたとき、グンソクさんが韓国に帰るときに起こったことで……

お見送りに来ていたうなぎさんに、私は生卵をぶつけられたのだ。

あのときは確かに驚いたし、ショックもあったけど、今はもう全然気にしてはいなかった。

「あのことはもう気にしてないですよ。電話でも何度もそう言ったじゃないですか。」

「いや、でも……お前のことだから、無理してそう言ってるんじゃないかと思って……」

「そんなことないですよ。大丈夫です。」

「……ほんとに?こんな目に合うくらいなら、もう俺と別れようとか思ってない?」

「思ってないですよ!そんなこと全然思ってません!」

「でも、嫌いになっただろ?」

「何をですか?」

「……うなぎのこと。」

グンソクさんは少しだけ悲しそうな顔をすると目を伏せた。

「本当にごめん。俺のせいで……悪いと思ってる。」

申し訳なさそうに謝るグンソクさんに、私は慌てて否定した。

「やめてください、グンソクさんのせいじゃありません。」

「だけど……」

「うなぎさんたちの気持ちは痛いほどよくわかります。だから私は、これからもうなぎさんたちのことを嫌いになったりはしません。」

ハッキリとそう言うと、グンソクさんは切なげに私を見つめた。

「〇〇……」

「グンソクさんが大切にしているものは、私にとっても大切なものです。グンソクさんが頑張れる理由がうなぎさんたちであるように、うなぎさんたちが頑張れる理由もグンソクさんなんです。だから……私なら本当に大丈夫ですから、もう謝らないでください。」

「……」

グンソクさんは表情を変えないまま、そっと私の頬に手を添えた。

「……うなぎだけじゃなくて、〇〇の存在も俺が頑張れる理由だよ?」

「知ってます。もちろん私にとっても、グンソクさんが頑張れる理由ですよ。」

「……」

グンソクさんは頬に添えた手を頭に回すと、私を引き寄せ優しく抱きしめた。

「もう2度と、あんなことは起きないようにするから……本当にごめん。」

切なそうに呟いた声が、私の耳元に響く。

「〇〇の言う通り、俺は考えが甘かったのかもしれない。だから、これからは自分のしたいようにするんじゃなくて、もう少し気を付けて行動するようにするよ。」

グンソクさんはそう言いながら、さらに私を強く抱きしめた。

「グンソクさん……」

私のことを心配して、そんな風に言ってくれたことが、私は素直に嬉しかった。

「あ、でもグンソクさん……」

「ん?」

「私は今日、家で待っててって言ったのに、さっき駅にいましたよね?全然気を付けて行動してないじゃないですか。」

ついそんなことを言ってしまうと、グンソクさんはばつが悪そうに私からそっと体を離した。

「だからそれは、1分1秒でも早く〇〇に会いたかったから、仕方ないっていうか……」

「あと、日本に来るときはちゃんと事前に連絡してください。せっかくグンソクさんがこっちに来てくれても、会えなかったら意味ないじゃないですか。」

「わ、わかったよ……今度からはちゃんと連絡するからさ……ごめん。」

(!!)

ちょっと口を尖らせながら拗ねたように謝ったグンソクさんに、私は思わずドキッとしてしまった。

(こういう表情って無意識にやってるんだろうけど、ズルいなぁ……)

思わずジッと見つめていると、グンソクさんが首を傾げる。

「なに?どうかした?」

「いや、かわいいなぁって思って……」

思っていたことをそのまま口にすると、グンソクさんはちょっと驚いたような顔をした。

「かわいい?俺が?」

「うん、かわいい。今のすっごくかわいかったです。」

「……」

私の言葉にグンソクさんは納得いかないような表情になった。

「あれ?かわいいって言われるのは嫌ですか?」

「いや、そういうわけじゃないけど……」

グンソクさんは視線を泳がせながら自分の頭をポリポリとかく。

「どっちかっていうと、〇〇には他のことを思って欲しいっていうか……」

「他のことですか?」

「うん……」

「他のことって何ですか?」

「それは……だから、例えば……」

「?」

言ってることがよくわからなくて首を傾げていると、急に真顔になったグンソクさんは、少しだけ強引に私の唇を塞いだ。

「んっ……!」

不意をつかれた私は、そのままの勢いでカーペットの上に押し倒される。

そして、私の体はグンソクさんに覆い被されるような状態で、唇は離れることなく、キスはさらに深くなった。

(ち、ちょっと待って!これ、どういう状況?!)

全く予想していなかった展開に驚きパニクりながらも、グンソクさんの甘く深いキスに、自然と体の力が抜けていく。

「〇〇にはいつも、ドキドキしてもらいたいから……今日は俺の魅力をとことん教えてあげる。」

そっと唇を離したグンソクさんは、鼻先が触れるような至近距離でそう呟いた。

(お、俺の魅力って……)

目の前に広がる綺麗な顔を見つめながら、私はゆっくりと口を開く。

「ぐ、グンソクさんの魅力なら……もう、とっくの前から知ってますけど……」

自分でも聞き取れないほどの声でなんとかそう言うと、グンソクさんはニヤリと笑う。

「じゃあ、もっと教えてあげる。どんなときでも、俺のことしか考えられないくらいに……」

低い声でそう呟いたグンソクさんは、私の首筋に唇を這わせた。

せっかく作ってくれたお鍋が冷めちゃうのに……なんて思いは、大好きな人の愛撫によって瞬時にかき消されていく。

頭の中がすぐにグンソクさんのことだけでいっぱいになった私は、その愛しい人の背中に腕を回した。

「〇〇……愛してる。」

低く甘い声が耳元で響き、熱くなっていく私の体をさらに熱くさせる。

(もう私はいつだって……グンソクさんのことしか考えてないのに……)

そんな思いさえ、かき消されてしまうほど、愛する彼に溺れていく。

甘く長い夜は、ふたりの気持ちを改めて確かめるように……

ゆっくりと……ゆっくりと更けていくのだった。












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