窓の外の景色を見つめながら、あの日のことを思い返す。

思い返す度に、俺の胸は締め付けられるように痛んだ。

(アイツは……本当にもう、なんとも思ってないのかな……)

韓国に着いた俺は、もちろんすぐに〇〇に電話をした。

電話の先でも〇〇は、大丈夫だからと何度も繰り返していた。

それでも心配する俺に対して、〇〇は半ば呆れたように、とうとう最後にはしつこいと怒りだしたのだった。

「〇〇さんは、あのことはもう本当に気にしてないと思いますよ。それで悩んでるような様子も見かけませんし。」

俺の気持ちを読むように、石川マネは優しくそう言った。

「そうかな?ならいいんだけど……」

「ええ。大丈夫ですよ。」

「……」

石川マネの言葉に少しホッとしながらも、俺は空港での〇〇の顔と、うなぎたちの顔を思い出していた。

「……俺はさ……」

「はい?」

「俺は……両方守りたいんだ。」

「え?」

「〇〇のことも、うなぎのことも、両方守りたいんだ。」

「……」

「〇〇もうなぎも……俺にとっては、どっちもかけがえのない大切な存在だから……だから、絶対にどっちも守りたいんだ。」

「グンソクさん……」

「そんな風に思うのは……ダメなのかな?」

静かにそう呟いた俺に、石川マネは穏やかな声で答えた。

「そんなことはありません。グンソクさんならきっと出来ますよ。」

「……」

「グンソクさんの、うなぎさんたちを想う気持ちは、ちゃんとみなさんにも伝わっていますよ。だから、きっと出来ます。僕はそう思いますよ。」

「……そうかな?」

「はい。だからこれからも、グンソクさんはグンソクさんらしく、進んでいけばいいんじゃないですか?」

「……うん……だけど……」

俺は一瞬言葉につまり、少しだけうつむく。

「だけど、あんなことがあると……これまで通り、自分のしたいように行動するのは、やめたほうがいいのかなって思うときもあるんだ……」

俺の言葉に石川マネは、少し考えるように答えた。

「そうですね……じゃあ、やめておきますか?」

「え?何を?」

「駅まで〇〇さんを迎えに行くのをやめておきますか?〇〇さんは、家で待つようにとグンソクさんにお願いしているのですよね?でしたら、その通りにしたほうが、よろしいのではないですか?」

「……それは……」

「よろしければ、今からでもご自宅の方までお送りしますよ?」

「……」

石川マネの正しい提案に、俺はしばらく考えたあと、ゆっくりと口を開いた。

「……ヤダ。」

小さく呟いた俺に、石川マネは苦笑した。

「嫌ですか?」

「うん、ヤダ。駅まで行く。」

「……わかりました。」

苦笑しながらそう言った石川マネは、駅までの道のりをそのまま進む。

「グンソクさんが駅で待ってると知ったら、〇〇さんきっと驚くでしょうね。」

「そうだな。驚くし、絶対怒られるだろうな。」

「ハハハ。そうかもしれませんね。」

石川マネは笑いながらそう言うと、少しだけ間を開けて再び話し始めた。

「……強くなりましたよね。」

「え?」

「〇〇さん。グンソクさんとお付き合いをするようになってから、強くなって、さらに素敵な女性になったと思いませんか?」

「……うん。そうかも。」

「そのうちもっと強くなって、グンソクさんが〇〇さんの尻に敷かれてしまうかもしれませんね。」

笑いながら、また冗談っぽくそんなことを言った石川マネは、駅のロータリーに入ると、ゆっくりと車を停めた。

「……いいね。ぜひ敷かれてみたいよ。」

ニヤリと笑いながらそう返した俺は、助手席のドアを開けた。

「サンキュー石川マネ。いろいろ、ありがとう。」

俺の言葉に笑顔で頷いた石川マネは、再び車を発進させて夜の街へと消えていった。

「……」

車が見えなくなるまで見送った俺は、腕時計を見る。

(もうすぐ着く頃かな……)

早る気持ちを抑え、改札に向かって歩き出す。

(会うのはあれ以来か……)

そう。去年の福岡空港で別れて以来、〇〇と会うのは初めてだった。

(あのときは、一緒にいたくてもいてあげられなかったから、今日は〇〇のしたいことを全部してあげよう。)

そう心に決めた俺は、さっき石川マネが言った言葉を思い出した。

『〇〇さん、強くなりましたよね。』

(……)

確かに……あいつは強くなった。

付き合い始めた頃は泣いてばかりだったのに、今ではこの俺を叱るまでに成長している。

(いや……あいつと付き合うようになって、成長しているのは俺も同じか……)

心から愛する人がいることで、ひとりだったときには感じることはなかった思いや感情がたくさんある。

それは間違いなく俺の人生の中で、俳優としても、ひとりの男としても、大きく成長させてくれているものだと実感している。

でも、俺を成長させてくれるのは〇〇だけじゃない。

うなぎもだ。

俺にとってうなぎは、エネルギーの源で、どんなことがあっても、どんなときでも、いつも全力で俺を支えてくれる。

そんな、うなぎたちには感謝してもしきれない。

今の俺があるのは、うなぎのおかげだから。

うなぎの存在が、チャン・グンソクという人間を、ここまで成長させてくれているのだから。

だから俺は、両方守りたい。

〇〇もうなぎも、俺にとっては、どちらも大事で、なくてはならない存在で……俺が頑張れる理由だから。

(だけど、本当に守れるのか……?いや……守るんだ。何があっても。〇〇もうなぎも、絶対に俺が守る。)

行き交う人々の中で、そう固く決心をした俺は、改札口の前に到着すると大きな柱によりかかり、〇〇がやって来るのを待った。

(会えたらまず、何をしよう?とりあえずどこかで一緒にご飯を食べて……いや、久しぶりにふたりで料理を作るのもいいかな。)

そんなことを考えながら、改札を通る多くの人々を見つめていると、視界の先に〇〇の姿が現れた。

(あ……来た!)

久しぶりの彼女の姿に、一気に胸の鼓動が加速する。

すると、〇〇も俺のことに気付いたのか、驚いた顔でこっちを凝視していた。

(家で待っててって言ったのに、何でここにいるんですか!?って顔してるな……ククク。)

〇〇の気持ちを推理しながら、俺は笑顔で大きく手を振った。

すると〇〇は、周りを気にしながらも、こっちに向かって笑顔で小さく手を振り返してくれた。

そんな彼女をかわいいと思いながら、俺は愛する人のもとへ向かって歩き出したのだった。














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