【暗い暮】

 暗い。雨のせいもあるが、雲がどこまでも垂れ込めているために陽光が届かない。3時過ぎには室内灯が欲しくなるほどだ。暗い暮れである。

【問題人物判明】

 さて、政府高官の「核容認発言」のその後である。問題発言者が誰なのか一向に報じられない。大手マスコミは忖度、及び腰なのである。だが、文春が首相補佐官の尾上定正と名指しした。

 尾上は、航空自衛隊から笹川平和財団に転じ、23年に防衛大臣参与、10月21日に首相補佐官に就任した。札付きの軍事専門家である。

【観測気球に止まらない】

 しかし、東条を筆頭とする軍事専門家が政治を壟断し、外交を支配したあげくに起こしたのがこの先の戦争である。軍事的戦略が国家原則を歪め、国家を破滅させることがある。日本に限らず、先例は数多ある。

 不思議なのは、官邸が国家原則に反する考えの人物を放置していることである。補佐官とはいえ、閣内不一致の原因となりかねない。本来なら即罷免のはずだ。

 文春は官邸関係者の「首相と銅鏡の奈良県のオトモダチ」という距離の近さから切ることができない」としているが、胡散臭い。高市には、尾上を辞めさせないことで、核容認容認に転じる契機とする深謀遠慮があるのではないか。国民はどうせすぐに慣れ、抵抗しなくなる。

 今回の発言は、そのための観測気球、確信犯的非核三原則破りなのである。

【近隣の反応】

 笑ったのは、核大軍拡をしている中国、世界中から核開発を批判されている北朝鮮の反応である。中国は「核不拡散体制に対する公然たる挑戦」と罵り(駐日大使館)、北朝鮮は「戦犯国の妄動」と断じている。自分を棚に上げてよくいうものだが、官邸幹部の単なるうっかり発言とは見做していない。

 不思議なのは韓国で、いつもの熱狂的激高がない。中央日報など大手3紙は淡々と報じるだけである。日本の核武装は自分たちの核武装につながるので歓迎する、露払いの汚れ役をさせておけばいい、というところなのだろうか。

【滅びに至る道は】

 かくして、「非核の世界的リーダー」であるはずの日本が核兵器容認に傾いた。アメリカにそれをとどめる意思も能力もない。余波は東アジアに止まらず、東欧、北欧にも及んでいくことだろう。中国、北朝鮮が核開発に一層まい進することになる。

 大量の核の前に、Jアラートも対空ミサイルも無力である。再稼働する原発は核の原料を供するだけではなく、格好の標的ともなる。軍事増強すれば安全が保障されるとの短慮が、滅びの道の地ならしとなる。日本の軍事専門家を自称する人々は、先の敗戦から何も学んでいないのである。暗い暮れである。