【いかにもの脅し】

 東洋経済on-lineに、厚生年金積立金「流用」正当化の論説が載った。慶應義塾大学経済学部教授土居丈朗による「基礎年金の底上げに厚生年金の積立金を流用するのか‥」と題する論説である。「流用」に噴る人は将来の税負担高騰を予期できない、と貶している。

 土居は、年金は給与所得者と専業主婦の世帯モデルで計算するが、就職氷河期世代は低所得である上に単身者が多い。そのため、生活保護給付水準に満たない受給額となりかねない。その帰結として生活保護受給者が増えれば、公的扶助の財源を賄うために増税が避けられなくなる。積立金を今さし出しておかなければ、将来増税で苦しむことになるぞというのである。不確実な予測からの現実的な脅しである。

 最後に、経済成長すれば年金が増えるとの付言まである。生産性向上という労働強化に甘んじておけば、年金が減らされないかもしれない、というのである。これもまた同類の、お為ごかしの脅しである。

【失策の免罪符】

 土居の主張は、これまでの政策、企業経営の全面的な免罪、正当化によって成立している。何重もの愚策を展開した連中を不問に付し、彼らとその後継者に幾久しく決定権を委ね続けようとする、無責任な主張でもある。

 就職氷河期は、1995年の日経連「新時代の日本的経営」に端を発する。それは、労働者を経費扱いする非正規雇用の拡大で低所得者を激増させただけでなく、未婚者を増やし、出生率を激減させた。その帰結として、低年金となる一群の世代が産み出された。

 将来、生活保護対象者が増えるのは避けられない。桐生市のやり方で減らすという手もあるが、評判が悪すぎるのであきらめざるをえない。

【厚労省と財務省の悪巧み】

 そこで、年金で最低限の生活を保障する。そうすれば、生活保護費に財源を割く必要がなくなる。公共事業や防衛費のための財源を確保できる。ねらいはまさしくそこにある。そのための厚生年金積立金「流用」なのである。人の褌で相撲を取るどころではない。他人の褌を盗んで他人に相撲を取らせて楽しもうという腹なのである。それは、財務省の権限維持、官僚の天下り先拡大のためににも欠かせない。

【憲法違反の政府】

 これまでの政治の失敗のせいで、老後の生活に窮する世代の出現は避けられない。しかしその解決が社会保険でなければならないということはない。日本国憲法は、政府による日本国民に「文化的で健康な生活」を保障するように規定している。税を財源とする社会福祉でも、公的扶助でもいいのである。財源がないからできない、ではない。財源をつくり出せない政府など憲法違反なのである。

【悪党どもの悪巧み】

 それでは、「百年安全」の社会保障のために消費税増税が不可欠であるということになるのだろうか。それもまた視野狭窄の極みである。

 所得再配分に有効なのは社会保障と直接税とするのが基本中の基本である。真っ先に増税されなければならないのは、これまで減税されてきた法人税や所得税などの直接税なのである。消費税増税は、それらが限界を迎えてからのことに過ぎない。

 今回の年金制度改悪が、「百年安全」の社会保障を共謀した自公民によることも想起したい。悪党は懲らしめられない限り、何度でも悪事をたくらむものである。その悪巧みに今回、東洋経済が場所を貸し、慶応教授が提灯を掲げた。しっかりと覚えておく必要がある。