【揺れるマンダレー】
ミャンマーのマンダレー付近で大地震だそうである。マグニチュードは7.7ながら、直下なので震度は3.11に匹敵したのではないだろうか。遠く離れたバンコクで中国企業が建設中のビルが崩壊するほどの揺れだったのである。マンダレーはパゴタの聖地である。一体どれほどのパゴタが崩壊したのかと気にかかる。軍部独裁政権が被災者救済に取り組むとは考えられない。これからの彼の地は雨期となる。生活が早期に再建され、憂き世とならないことを祈るばかりである。
【胡乱な異論】
さて、今日の朝日新聞に例の佐伯啓思「異論のススメ」が掲載されている。もはや論ずる気にもなれないのだが、見過ごせない誤りがあるので、言及しておく。
全体的には、いつものように脈絡のない妄論である。いいたいのは「自由主義」という価値観が、その推進者であった米国にトランプが登場することによって否定された。今まで自由を叫んでデカイ顔をしてきた連中はざまあみろ。それだけである。じゃあ自由を否定しておいて代わりに何を提言するのかというと「次の段階への道が見えてくるわけでもない」と終わっている。身もふたもない虚無的精神である。
【「比較優位説」!!】
見過ごせないのは、「さて自由主義の教義であるが」と、自由主義の根幹とみなしてとり上げる「比較優位説」に関してである。佐伯は基本的な考えとして「ざっと」次のように説明する。
『ここに、農業に適したA国と工業に適したB国があるとすれば、A国は農産物に特化し、B国は工業品に特化して貿易すれば、双方ともいっそうの利益が得られるという。これがもともとの自由貿易論の教義である。自由貿易の「比較優位説」と呼ばれるものだ。』
その上で、現代はスミスやリカードが困難とした資本や労働の移動が容易となり、各国の比較優位が簡単に変動し、国家間競争が激しくなった。米国における製造業の衰退はその帰結だとする。政府支援は当然視される様になった。
【兄弟のような暗愚】
しかし佐伯が「ざっと」説明しているのはリカードの「比較優位説」ではない。「絶対的優位」に基づくスミスの国際分業論である。
正しくは、「A国が、B国よりも農業と工業の双方に適していたとしても、A国は自国の農業と工業の生産性を比較し、より優位と判定される農産物に特化し、B国には工業品に特化してもらって貿易すれば、双方ともいっそうの利益が得られる」のが「比較優位説」である。
高校生などに良く見られる混同だが、大学においては到底受入れられる見解ではない。共通テストでも、このような出題がなされることはあり得ない。それが京都大学の経済学の名誉教授がおっしゃるのである。大丈夫か京大、大丈夫かそれを臆面もなく掲載する朝日新聞。
【異論が正論とされる日】
権威に弱い人たちはこれをすんなりと受入れて、佐伯の見解を根拠に生きていくようになる。周りの人間に吹聴、拡散する。彼が教員なら、この紙面に基づいて定期テストの問題を作ったりする。かくして「異論」は拡大再生産され、あげくの果てに多数派を形成し、民主主義的に少数派の正論は認めない、などということになりかねない。トランプ現象は他人事ではない。日本でも、京大と朝日新聞が旗を振って推し進めていくかもしれないのである。