【3倍値上げを勧める塾長】

 Newsweekに加谷珪一の『国立大学「学費3倍」値上げ議論の根本的な間違い』という論説がある。次のような内容である。

 文科相審議会で慶応義塾長が、国立大学授業料を53万5800円から150万円への大幅値上げを提言した。資源に乏しい日本にとって、人材育成こそが国を富ませる資源であり、明治以来の国民共通の価値観だった。しかし今、公的教育の提供を制限・抑制しようという動きが顕著になっている。大学進学の門戸を狭めれば、日本の技術力は低下の一途をたどることになる。 

 伊東某の提言の完全否定である。

【嬉しい値上げドミノ】

 伊藤某の主張は「天は自ら扶くるものを扶く」との理解に基づくのだろうか。高等教育の費用も己れの資力で賄うべきである、ないものは奨学金を活用すればいい。共助や公助をあてにするふがいない精神など捨てされ、といいたいのだろうか。

 それが通れば、国立大学授業料という最低価格が引き上げられるのだから慶応の授業料の一層の引き上げが可能になる。他大学にも波及する値上げドミノが生じることになる。各大学の学長は、獲得したふんだんな資金を学内に分配して支配力を強化する。同時に、お金持ちの子弟が、公平、公正な競争の下で「優先的」に進学する仕組みが整う。ビンボー人は卒業後の奨学金返済のために汲々とするので、長時間労働も厭わずに働くようになる。富めるものはさらに富み、貧しいものは一層従順となる。彼らの理想社会の実現である。

【福澤諭吉に唾を吐く】

 しかし、西欧思想を勘違いして受容、喧伝することの多かった福沢諭吉でさえ、「天は人の上に人を作らず」といったではないか。伊藤某は気がついていないようだが、学祖を公然と否定している。学費値上げ提唱は、「日本社会は人の上に人を作る」前近代的仕組みを復活させようといっているに等しいからである。慶應の自己否定、天につばを吐いているようなものである。

 人権宣言A規約13条2項cは、高等教育無償化を掲げている。大学の授業料はタダが20世紀以降の国際社会の共通目標なのだ。このような妄言が通れば、高等教育無償化を進めている世界から日本が取り残されることになる。一層の格差社会となり、発信力を失い、国力を衰亡させ、世界から軽視される国となる。「一身の栄華のために一国の独立を損なう」、そのような提言だといっていい。

 外国の流行を曲解した上での物まねは福沢以来の慶應の習性である。特にアメリカへの皮相的追随はお家芸といっていい。そのような下劣な知性に依拠して日本を壊すのを許してはならない。

【無駄な長口舌に無闇と長広告】

 それにしても、Newsweekの記事に付されるあの長ったらしい動画広告はどうにかならないものだろうか。社の利益には貢献しているのだろうが、この商品は絶対に買わないとの決意を固めさせる効果しかない。そのうちに慶応が真似して、受験問題に広告を載せるような気がしてならない。