【厚顔インフレ】

 「強欲インフレ」というのだそうである。企業が商品価格を引き上げ、その利益の独り占めで生じるインフレのことである。

 朝日新聞は、GDP分析で「物価上昇しても賃金にほとんど回らず、大半が企業収益に」なったと報じている。

 国内要因のみを反映する「GDPデフレーター」は「前年度比4・1%上昇と1981年度以降、最大の伸び率となった。」

 そのうちの「賃上げ要因は0・3%分にとどまった。割合では1割に満たない。残りは…「大半は企業収益と考えられる」。かくして、トヨタの5兆円超を筆頭に、「24年3月期決算で、上場企業の純利益の総額は3年連続で過去最高」となった、というわけである。

【金貸しも保険屋もぼろ儲け】

 儲かっているのはメーカーだけではない。

 地方銀行99行中赤字は5行のみで、67行が増益となった。「日本資産運用基盤グループのまとめでは、最終利益の合計は前年同期比9・2%増の9262億円…貸し出しや運用など本業のもうけを示す「実質業務純益」は前年比13%増の1兆1261億円だった。」

 生命保険大手8社は「本業のもうけを示す基礎利益を伸ばした。…売り上げにあたる保険料等収入も6社で増えた。」

 銀行も保険も儲かっている。寄与したのは手数料や保険料収入などの「売上げ」の増加である。そこに「値上げ」が潜んでいる。

【素晴らしいインフレと誰がいう】

 朝日新聞は知らん顔をしているが、日本のメディアはアベクロ路線に便乗し、デフレは悪いもの、その反対側のインフレは良いものとの想念をふりまいてきた。そのような応援を受けて、企業は公然と、恥じることなく値上げをするようになった。理屈などいくらでもつく。ウクライナ戦争による物資ひっ迫、パレスチナの虐殺やイランの政情による中東石油不安、そして人手不足対策、等々である

 しかし、最後の人手不足対策は大嘘であることが判明した。企業の利益は賃金になど回されていなかったのである。値上げによる利益はほとんど企業の利益となった。それを目的とする、さして必要のない、あったとしても必要分の何倍にも上る値上げだったのだから当然ともいえる。かくしてインフレのみが進行し、実質賃金は24ヶ月連続マイナスとなった。家計は逼迫し、公教育は瓦解、少子化は止まるところを知らない。日本民族の衰退である。これが某政党の大好きな「自由」のもたらした事態である。

【異本民族衰退期】

 毎日新聞記者の東海林智著に『ルポ 低賃金』がある。そこには岸田内閣における「新しい資本主義」実現事務局作成の「賃金・人的資本に関するデータ集」資料が抜粋、紹介されている。

 それによると、大企業は2000年度から2020年度にかけて、経常利益91.1%増、現預金85.1%増、株主配当483.4%増となった。これに対して人件費はなんと0.4%マイナスである。大企業に袖がないわけではないのである。どんどん伸びて大振り袖になっているのだが、れっきとしたステークホルダーたる労働者のために振るつもりはない。今回のインフレでもそうなった。

 東海林は、全ては95年日経連の「新時代の『日本的経営』」に端を発するとしている。首謀者である成瀬健生は、非正規拡大は円高対策としての2~3割の賃金引き下げ策であったと白状し、景気回復後は元の正規雇用に「復元する」と思っていたのだがそうならなかった。非正規が「今ほど増えるとは思わなかった」といっているという。(東京新聞2023.2/27)

 現実というものは愚か者の思念を超えて展開するものである。今回のインフレをもたらした企業経営者の強欲もまた、日本社会を衰亡させる一因となるのだろう。バカが偉そうに居座る民族が衰退するのもまた、人類発展のためには正しいことなのかもしれない。