【哀れなる人間たち】

 久しぶりにシネマを観た。お子様向けアニメ中心の当地方映画館では放映はないとあきらめていた、ヨルゴス・ランティモス監督『哀れなるものたち』である。

【鶏犬に鶏豚】

 物語は荒唐無稽である。自殺した母親の肉体に移植された胎児の脳が急速に自我を獲得する。その過程が、独特の映像で描写される。あなたも私も監督と一緒に、鍵穴を覗く出歯亀となる。

【フェミニズムを超えたヒューマニズム】

 秘められたテーマは女性の、いや人間の自律である。無垢な人間が自然に成長すればこうなる、との提示である。人間を勝手に規定する権威主義を否定する。女性は最後に、諸悪の根源である父親を人間界から追放する。野羊と脳を交換してしまうのである。

 この父親は、女性を支配しようとするだけではない。全ての人間に対して支配を試みる。その力の源泉は彼の人間的能力にあるのではない。ピストルという暴力である。他の誰も手にしていない以上、至高の権力の道具ととなる。“Poor things”とは、真っ先に彼を意味している。

【哀れなる国々】

 父親は英国軍人という設定なのだが、そういう意味では英国は“Poor countrys”の代表でもある。自分の意思貫徹のためには人の不幸などお構いなし、まるで西洋の神のように傲慢である。おっと、鬼っ子の米国も忘れてはならない。英米の権威主義者どもの脳を野羊と取り換えたら世界はどんなに幸福になることだろう。野羊にとっては大迷惑なことだろうが。

【現代音楽の極致】

 音楽も前衛的であったことをつけ加えておく。大友良英が大好きそうである。