【空打ちの栗の毬】

 連日、栗の毬が落ちてくる。しかし中身はシイナばかりである。我が家の栗の季節はとうに終わったのだ。そういえば、肌掛けでは物足りなく感じる。パジャマを上下着ないで寝ると夜中に目覚めることがある。予感の気温はそれだけ下がってきているのだ。夏は終ったのである。

 台風が過ぎ、一時的には暑さがぶり返すだろうが、その後に雨が降ったらもう本格的に秋である。

【バーゲンの楽しみ】

 さて、楽天ブックスにバーゲンコーナーというのがある。各書店の在庫処分の本が集められている。古本ではない。車に新古車というのがあるが、その修辞でいうと新古書ということになる。価格を示すバーコードの上に別のバーコードが貼られ、ほぼ半額で売られることが多い。

 そのような新古書の一覧の中に、『俳優 原田芳雄』というのを見つけた。キネマ旬報社刊である。

 俳優の各本は概ね面白い。文章もうまい。俳優はバカではできないのだから当然だろう。裏話にも満ちているので、購入することが多い。しかも、70年代のヒーロー原田芳雄である。早速取り寄せてみた。

【インタビュー3題】

 内容は奥さんへのインタビューが主であった。石橋蓮司、鈴木達夫、本人の談の三部構成である。それでも十分に面白かった。70年代というのは、映画会社のスターシステムが成り立たなくなった後の、新しい演技の試行が展開されていた時代だったことが理解できた。原田はその自覚的な追及者だったのだ。

 中国で大ヒットした「君よ憤怒の川を渡れ」はともかく、「赤い鳥逃げた」や「祭りの準備」の助演が印象的だった。なかでも「龍馬暗殺」が強烈であった。黒木和雄監督、モノクロ16ミリの作品である。なんとなく、黒澤の「虎の尾を踏んだ男達」との2本立てで見たような記憶がある。そして、龍馬のイメージはいまだに原田芳雄、中岡慎太郎は石橋蓮司である。福山雅治ではない。

【紋次郎時代の「御子神の丈吉」】

 紋次郎が流行っていた往時、3番館で見た「御子神の丈吉」が面白いと大学の映画関連学部の友人にいったらけげんな顔をされたことがある。高尚な映画を志していた彼のことだから、たぶん馬鹿にされたのだろう。

 それでも、面白かった。そしてこの本で、3作シリーズ化されていることをしった。話題になっているとは思えない、3番館で初めて知ったような作品だから当たらなかったのだろうと思っていたら、それなりに観客動員力があったのだ。しかし、レンタル屋は日本映画の古典には冷たい。その旧作一覧に「御子神の丈吉」は一枚もない。

【末期の微笑】

 「大鹿村騒動記」の試写会の会場だろうか。痩せて、坊主頭の原田が車いすで登場した映像を見たことがある。大腸ガンの末期にもかかわらず、車いすを押されて舞台に上がった原田の微笑を見て、不思議だった。医学的には絶望的で、弱く、惨めな姿となってもその姿を平然と晒す。スターであった祐次郎や健さんとは異るのである。

 どんなときでもあきらめないと示す意図があったのだろうか。事実、奥さんの話では「蓮司と股旅物がやりたい」と、次回作に意欲を示していたそうである。

 その名は今のところ、急速に忘れられつつあるようだ。本は売れないで新古書にまわされてしまうし、DVDも揃えられていない。蓮司との股旅物は不可能だが、「御子髪」の残り2作を是非観てみたい、と思う。だれか、上映企画を試みてくれないだろうか。