【宰相の決断】
昨4日、岸田首相がマイカにする記者会見を行なった。前日から予告した上での大仰な「説明」だったが、中身はといえば「健康保険証廃止の延期は検討中」というものだった。よーするに、廃止判断時期の先延ばしである。無限大に延せば「廃止の廃止」だが、短期間に終わらせれば「廃止の断行」である。
どちらになるか分らないが、国民の不安が解消できないのでマイナ保険証への移行は断念する、とはいえない。支持率がいくら落ち込もうと、そのように決断することが決断できないのだ。
【国民の資産を管理したい】
今回の騒動の大元は国民総背番号制にある。2003年に導入された住基カードは鳴かず飛ばずのまま沈没してしまった。昭和の時代には、小額非課税制度(マル優)を利用して預金管理を試みたことがあったが、これは導入直前で中止になっている。政府は一貫して国民の資産を全面把握したいのだ。行政が執拗に追求してきたのはもちろん、国民負担を増大させるためである。
すでに、確定申告等において個人番号記入は必須となっている。また、税務署がその気になれば、個人の銀行預金を調べ上げることは可能である。しかし、確定申告とは無縁な低所得の人達には網をかけづらい。そこで、マイカを銀行口座に紐づければ、そこから一気に全国民の預金状況を把握できるようになる。
そうすれば、どんなに所得が低い人でも、貯蓄を基準に各種負担を求めることができるようになる。介護施設ではすでに、一定以上の貯蓄がある人に室料や食事代などを求めるようになっている。しかし、通帳のコピー添付申告では遺漏が生じる。複数の口座を有していないか、提出コピーの他に預金がないかを調査する能力など介護施設にはない。マイカと連動させれば一発である。不正はなくなる。実に公平である。
ただし国民の所得と資産は丸裸になり、ゆとりは消えうせる。百姓が飢饉に備えて土壁の中に隠した籾米を徴発するようなものである。
【公的詐欺】
そのために、マイナポイントというアメで誘導した。一定の効果があったが90%、100%ということにはならなかった。そこでムチである。医療保険と一体化し、マイカをもたないとこれまでのような医療費支払いはできなくなると脅した。
そこに、脅されても対応できない人がいることや、保険料を徴収しておきながらマイカという別制度の有無で給付を制限するのは許されない、という自制はない。公的保険を人質に脅迫するようなものであり、ほとんど特殊詐欺である。
【悪党の恫喝】
昨今の政府の、いったん決めたことは撤回しないという姿勢は、確固たる見通しや精緻な合理的判断があってのことではない。実は、優柔不断の挙句の一か八かであり、あるいは声の大きなものに押し流されているにすぎない。古くは金融緩和にアベノマスク、これからのインボイス、汚染水放水も同一路線上にある。
判断に自信がないから、異を唱えられると恫喝する。加藤厚労相は「自治体のマイナ点検中に延期すれば混乱する」と延期反対を主張したそうだが、自治体公務員の業務負担を思いやってのことではない。反対の根拠として便利だから自治体を持ち出しているだけである。マイナを強行し、公務員を繁忙化させ、自治体を混乱させている主犯は、実は加藤なのである。
それでも、政治家には効果は抜群で、木原副官房長官をまんまと延期断念に追い込んだ。民主も弱腰で、マイナ保険証の廃止ではなく統一の延期を求めているにすぎない。このままでは、「民主的手続き」に則って、いつの間にかマイカオンリーの世の中になるのかもしれない。それはほとんど、身分証明書を四六時中携帯しなければならない「1984年」の世界である。面倒だから、耳たぶにICチップを入れてくれ、あるいは額にバーコードを入れ墨してくれという人が、きっと出現するに違いない。それが、今現在の状況からの来るべき未来である。