※記憶をたどりながら、船旅の日記を書いています。




6月8日 ヘルシンキ(フィンランド)

おばあちゃんから孫まで伝わる「サステイナブル・デザイン」



船乗り日記
Photo: Mitsutoshi Nakamura





スペインで幸せな休日 を過ごし、

カマンベールチーズ発祥の地にほど近いフランス・ルアーブルを経て、

船は北欧に入っていった。



いつも地球の南周りクルーズを担当していた私は、北欧を訪れるのが実は初めて!

北欧の福祉と環境政策も、教育も、サステイナブル・デザインに触れるのも、

旅のハイライトとして、楽しみにしていた。




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・・・といっても、今回の船の企画を作りはじめる前、

北欧について、私の「知らない」度合いといったらひどいものだった。


「北欧」といったら、マリメッコやイケア、いくつかのデザイン・ブランドの名前を知っていたのと、

あとは、税金が高くて、でもそのぶん福祉や環境政策が進んでいるんでしょ、

というようなかなり漠としたイメージ。


スウェーデンとフィンランドの違いも、聞かれても答えられなかった。


でも、よくよく聞いてみると、

70年代から社会福祉国家立国をめざしたいわゆる「北欧三国」とは

実はデンマーク、ノルウェー、スウェーデンのこと。


フィンランドは、その中に入っていない。

その時点で、まずビックリ。




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北欧から、アロマセラピストの大橋マキ ちゃんも娘の日鞠ちゃんと一緒に参加!

モンテッソーリのこと、北欧のこと、たくさん取材してもらいました~。




フィンランドが「スカンジナビア・モデル」を掲げはじめたのは本当につい最近のことで、

実は90年代のあたまには国家倒産の危機にも瀕していたなんて、まったく知らなかった。


そして、国のいちばんの危機に直面した時に、「国を立て直すために教育に投資をしよう!」と決めて

当時若干28歳だったヘイノネンさんを教育大臣に起用し、国家統一カリキュラムを大幅に削減して

先生の自由裁量を増やすような粋な度胸のある国だということも、知らなかった。


思い切った教育改革は、結果として、OECDが主催するPISA(主に先進国の15歳児を対象とする

学習到達度調査)で数学リテラシーも読解力リテラシーも2回連続世界1位という信じられない変化をもたらした。

その教育システムのもとでクリエイティビティーを育んだ子どもたちは、

有名な「NOKIA」ほかたくさんの新しいIT事業を生んだ。


そして、たった10年前には「国家倒産の危機」に瀕していたはずのフィンランドは、

一躍世界の「先進国」入りを果たした。




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iittalaのショールーム兼オフィス。光もたっぷり入る、この開放感!




そんなドラマチックな変化を遂げた、魅力あふれる国が北欧にはたくさんある。

なのに、そんなことまったく、ほとんど、知らなかった。



日本は「欧米」を見ているつもりでいて、実は知っているのはアメリカのことばっかりなのかもしれない。

アメリカのことだったら、オバマさんの顔はもちろん、大統領夫人の顔だってわかるし、

その趣味や着こなしまで報道されているくらいなのにね。




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知らないづくしだった私は、まず「北欧デザイン」の勉強をはじめるところからスタートした。

調べていくうちに、面白いことがわかってきた。


日本では「北欧デザイン」なんていってひとくくりにするけれど、

フィンランドとスウェーデンのそれはその中身がずいぶん違う。


長い間、大国に囲まれながら必死で自分たちの言語や文化を守ってきたフィンランドの人たちは、

感情を表に出すことが控え目だったり、うちとけるまではシャイだったり、「もったいない」という気持ちを

日常の中にたくさん持っていたりと、西欧というより日本のメンタリティーに近いものをたくさん持っている。


(フィンランド先住の人々であるサーメ人も、その言語も、ゲルマンよりはモンゴロイドに近いものだそう!)


そのメンタリティーが、デザイン文化の違いにも表れているのが面白い。


スウェーデンが生んだイケア(IKEA)は

常に新しいデザインを追求して、合理的で、機能的で、世界に大規模展開している。

その一方で、

フィンランドが誇るマリメッコ(Marimekko)、イッタラ(Iittala)、アルテック(ARTEC)は

1920年代からほとんど変わらないデザインも多く、世代を超えて長く使える高品質のものを

とことん丁寧に作っている。




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ARTEC。 「One Chair is enough: 椅子はひとつで十分」キャンペーン中!



日本で「北欧デザイン」を買うのは、お金に困っていない、ファッション・コンシャスな人たちかもしれない。

でも、フィンランドでは、普通の家庭の普通の人たちが、当り前のようにして高品質なものを選ぶ。

そして、いい椅子をひとつ買ったら、布地を何度だって貼り替えながら

おばあちゃんから孫の代まで、ひとつの椅子を大切に使うのだ。




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私たちの世界では、みんな「サステイナブル・ライフスタイル」という新しいゲームで遊ぶんだよ、というメッセージ。




家具メーカーのアルテックの店舗に行って、うれしかった。

スタイリッシュな、でもとってもシンプルな椅子やソファの横に、

たくさんの家具パーツや張り替え用の布が並んでいた。

みんな、長く使った椅子がちょっと壊れたからってすぐに捨てて買い替えたりしない。

少しずつ手を入れながら、長く長く使っているのだった。

「1920年代に出した椅子の布張り替えだって、当然請け負う」とスタッフは誇らしげだった。




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「オーガニック・チェアー」だって。           リサイクル素材が生まれ変わった、デザイン椅子。



陶器で有名なイッタラの工場を見学しにいって、感激した。

誰もが知る世界的企業で、それはそれはたくさんの需要があるだろうに、製造過程の多くを国内で済ませている。

コップひとつとってみても、長持ちするように、いいものができるようにと、たくさんの工夫があった。

マグの持ち手部分はすべて手作業だし、高温で一気に焼き上げることをせずに

低温で2度、3度と窯に入れなおして焼いていた。



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さすが、ムーミン発祥の地!             1940年代から変わらないデザインのエスプレッソ・メーカー。



ワクワクするのは、商品が「いいことしてる」だけでなく、そのデザイン性がとっても高いこと!

本当に美しい、素敵な、いいものが、たーくさん、あるんです。




船乗り日記 思わず、かなりの大人買いをしてしまった私。

                  ツアーの添乗をしながら買い物バッグが持ちきれず、日本まで船便で送ることに・・・




暮らしの中にある「モノ」に対するこういう姿勢って、本来、日本にもきっと根付いているものだと思う。

日本でも、志の高い作り手たちや、一部の心ある人たちは今もそうやって作業をしているけれど、

ほとんどの大きな企業のありかたも、消費者のライフスタイルも、

ここ数十年でずいぶん変わってしまったんじゃないかと思う。





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フィンランド中から「今が旬」の若手サステイナブル・デザイナーに集まってもらい、

「持続可能なデザインの未来」についてディスカッション。

香りのプロ・大橋マキちゃんも大好きなインセンスデザイナーも参加して、議論は白熱!



船乗り日記
大人が話に夢中なあいだ、子どもたちは外でノンビリ。




10年前の「国の危機」から教育に大きな投資とテコ入れをすることで

経済的にも文化的にもイキイキ輝きだしたフィンランド。


道行く人たちの表情はみんなノンビリしていて、ゆとりがあって、

話しかければ一様に優しくて、あったかい。


近隣の「北欧三国」が掲げる社会福祉政策を段階的に取り入れながら、

社会としてもより成熟する準備万端、というように見えた。





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「本当の豊かさ」 

・・・なんて、よく言われるキーワードだけど、北欧には間違いなくそれがある。


日本は、

アメリカの背中を見ながら、

今いったいどこに向かっているんだろう。


フィンランドのサステイナブルデザインにテンションをあげられまくりながら、

日本に巣食いはじめている「膿み」のようなものもかたちを帯びて心に浮かんでは消える。


明るい光と暗い色が心の中でくるくると高速回転をはじめるのを感じながら、

ヘルシンキ出港を迎えた。




何も知らなかった私に、フィンランドの魅力のひとつひとつを丁寧に教えてくれて、

このツアーに関わったデザイン企業やサステイナブル・デザイナーたちを紹介してくれた

ARTECアジア広報担当のアンニに感謝。


素敵なアンニを紹介してくれたジョーに感謝。

子連れで出張はできない私に代わって、このツアーを形にしてくれた瑤子とゆりやに感謝。


人のつながりって素晴らしい。みんなのおかげで、大好きな土地がまたひとつ増えた。




次なる寄港地は、デンマーク

国民の「幸福度調査」で世界一を誇る国。


コペンハーゲンでは、どんな出会いが待っているんだろう。