「ブラック・ジャック」 | 信州の産婦人科医院から

「ブラック・ジャック」

 一定年齢以上の医療従事者としては、やはりこのマンガの影響は否定できないですね。また直接の世代じゃ無くても「医者が主人公のマンガ」と言われればこの作品を思い出す人は多いでしょう。そのぐらい影響力の大きい作品だと思います。

 

 私自身のこの作品との出会いは小学生の頃です。友人の家に単行本があって、遊びに行ったときに読みふけっていた記憶があります。中高時代はファミコン大好きでドラクエなどのRPGやそこから派生したファンタジーにハマっていて「ブラック・ジャック」にはあまり触れていなかったのですが、自分が大学進学した頃にちょうど手塚先生が亡くなられて、それからドッと出版された手塚作品の全集を買い漁った時期がありました。バイト代を手塚作品単行本に相当ツッコんだ思い出・・・。これらの本はいまだに手元にあって、本棚を埋めております。

 単行本は角川ハードカバーバージョンだったと思いますが、これを片っ端から買いました。今は無くなってしまいましたが、当時の長野市には現在のドンキみたいに本を(しかも半分はマンガ)圧縮積み上げ陳列していた本屋さんがありまして、これが実家から徒歩5分でしたので帰省するたびにそれまで稼いだバイト代を持ってそのお店を訪れて、1冊抜いたら崩れそうなジェンガ状態の本の山からまだ買っていない手塚作品を発掘して購入していたのであります。(そう、あの旧ダイエーの1階にあった本屋さんでございます)

 さすがに医学生になると手塚先生が描かれたフィクションの部分は「いや、医学的にはあり得ないでしょ」みたいなツッコミが出来るようになっておりましたが、一方で「これは医学教育を受けたからこそ描ける話だなあ」と別の角度から感銘を受けた話などもありまして、そういった意味でまた新たな影響を受けた所もあります。

 

 で、これから「ブラック・ジャック」を読む、という人には、ぜひこの作品を通じて「生命とお金」というところに注目して欲しいなあと思います。「命を助けて欲しければ、いくらでもお金を出すでしょう。あなたはいくら出しますか?」という問いは簡単なようで凄く深い。「命にどこまでお金をかけるのか?」というのは医療費の増大が問題となっている今だからこそ、より大きな意味を持つと思うのですよね。

 自分が患者として医療機関を訪れたときに目の前に間黒男先生が現れて「で、いくら払ってくれますか?」と言われたときに、自分はどんな返事が出来るのだろう。学術的にはちょっと古い描写もありますが、そういった物を超えてなお「生命の価値とは何か?」という普遍的なテーマがあるから、この作品は不滅の名作なのだと思います。なので医療関係者で無くてもお勧め、ぜひ読んで欲しい作品ですね。