黒猫クロとシャムは、思えば不思議な関係だ。
うちに来る前の話なので、詳しくは分からないのだけれど、
シャムは、猫のボスとしていつも子猫を可愛がり
保護していたそうだ。
だから、子猫の時に拾われたクロは、
きっとシャムに可愛がられて育ったに違いない。
今でもシャムとクロはとても仲がいい。
クロがシャムに敬意を払っているのは、
いろいろな機会に態度に表れる。
ベッドで寝ているわたしに甘えるとき、
クロはシャムとわたしの間に割込んできたりするのだが、
その前に、ちゃんとシャムの顔に自分の顔を近づけて
猫のあいさつをする。
くっついて寝ている姿、抱き合って寝ている姿も
しばしば目にする。
そんなに仲の良い二匹なのに、
クロはシャムに闘いを挑み続けてきた。
けっこう激しく争って毛が飛び散っていたことが
うちへ来てからも何度もあった。
二匹の背中にハゲが今も残っている。
クロの挑戦は、クロが大人になって以来
ずっと続いているらしい。
クロにとって、シャムはおっきくて強い
父か兄のような存在だったはずだ。
大好きだけど、なんとしても乗り越えたい。
乗り越えなければ前に進めない。
シャムは、クロの前に立ちはだかる
高い山のような存在でもあるのだろうか。
負けても負けてもクロは戦いを挑み続けたという。
そしてシャムは、クロにケガをさせないように
気をつけて相手をしていたそうだ。
シャムはクロを追い詰めて心を折ることもしなかった。
シャムに勝つことはクロの生涯をかけた悲願のようだ。
幸い、シャムが病気になって以来、
クロの挑戦は止まっている。
弱っているときに倒しても仕方がない。
万全な状態で戦って勝つことに意味がある。
猫の頭でそこまで考えたりはしないとしても、
シャムが大好きなクロは、弱っているときには戦いを
挑む気になれないのだろう。
年取って弱ってきたシャム。
病気のせいで、いっそう衰えてしまった。
まだまだ元気といいたいけれど、
もう全盛期の力には、はるかにおよばない。
動作が年寄りくさくて悲しくなるときさえある。
クロがちょっと気の毒だな、と思う。
シャムの力はもう戻らない。
生き物は、年には決して勝てない。
クロの生涯をかけた挑戦は、
残念ながら不発に終わるのだ。
シャムが若いうちに勝っておくべきだったのだが、
相手が悪すぎた。
体が大きく、力が強く、獣医さんも驚くほどゴツイ爪を備え、
ノラ時代があって戦闘経験も豊かなシャム。
子猫の時に拾われて、以後苦労知らずのおぼっちゃんに
勝てる相手ではなかったのだ。
そんなこと、クロに分かるはずもないけれど、
分かっててもこう言うかもしれないな。
--それでもボクは勝ちたいんだ。