はい、ちょっと諸事情で二週空いちゃいました、スミマセン(汗)
ちなみに、今回のブログも「空のキャンバス」。
そして、前回宣言した通り、今回でこの「空キャンシリーズ」は最終回でございます。
えー、前回のブログで取り上げたのですが、
あずさが臨終間際に発した、この言葉。
この、あずさの言葉を機に、赤城榛名はふっきれます。
そして、世界規模の大会で優勝をすれば、榛名は太一に「例の真相」を打ち明ける決意を固めるのです。
その、「例の真相」とは
「太一がライバルとして追い求めている『あいつ』とは、実は女である自分」
だという事。
もちろん、この真相。
榛名が、一体操選手のままでしたら、太一も相当ショックを受けるでしょうが、
「世界チャンピオン」
という肩書きを、榛名が得たらどうでしょうか。
「たとえ女であっても、俺がライバルだと思い込んでいた『あいつ』は、世界チャンピオンになる程の凄い奴」
こう、太一は納得するのではないでしょうか。
実際、太一は
「あいつは今、どこにいるかわかんないよ。
だから、今は榛名ちゃんを『あいつ』だと思っていたいんだ」
と、榛名を自分の「仮想ライバル」と、しますしね。
(榛名が「あいつ」本人なのが、またややこしいトコロですが 汗)
さて、翻って太一の方ですが、共演会優勝によって選出された強化合宿でのハードトレーニングがアダとなったのか、身体を蝕んでいた障害がみるみる悪化。
右手の麻痺は数日続くようになり、ついには視神経にも麻痺が出始め、手術を余儀なくされます。
そして、太一の手術当日。
この日は、奇しくも榛名の世界戦(ジャパンカップ)デビュー日でもありました。
この日、太一と榛名の二人は、ある決意を固めます。
榛名は前述したように、優勝を決めれば、太一に「例の真相」を話す決意。
そして太一は、成功率30%という手術で自分が生還出来ないのでは、と思ったからか、ある手紙を榛名にしたためました。
ちなみに、榛名がその手紙を見たのは、強豪エレナ・シュトロワと並び、見事
「世界戦同点優勝」
を決めた後。
「やっと、太一くんに全てを打ち明けられる時がきた!」
心踊らせながら太一の元へ向かうも、後述する理由で合宿所へと引き返した時に、榛名はその手紙を目にします。
「愛の告白」、ですね。
これまで、太一はギリギリのトコロで榛名にこの事を黙っていたのですが、
「自分が死ぬのでは?」
という思いの前には、太一も黙ったままではいられなかったのでしょうな。
しかし、この手紙を読んだ榛名は
「うれしかったわ……、でもくやしくて……」
と、複雑な想いを吐露。
はて、「嬉しくて」は分かるのですが、「悔しくて」はどういう意味でしょうか?
まさか、手術が失敗して、太一は帰らぬ人となったのでしょうか。
いいえ、手術はどうにか成功します。
しかし、運命のイタズラというべきか、太一は「男と男の約束」も含めた、全ての記憶を無くしてしまったんですよねー。
それ故太一は、榛名の事はもとより
「自分が体操をやっていた」
という事も忘れてしまうのです。
「どうして! どうして、こんなすれ違いが!」
手紙によって太一からの「愛の告白」を受け取った榛名は、この愛すら太一が忘れてしまっている現状に憤りを覚えますが、そらそうでしょうな。
こんなすれ違い、榛名だけやなく読者としてもキレてまうちゅうねん!!
( ˘- з-)
さて、太一ですが記憶を失った事により、生きる活力も失ったのか、どんどんと無気力に。
この現状を危惧した周囲の人間は、太一に再び体操をやらせる事で、生きる活力と共に記憶をも呼び起こすキッカケを掴んで欲しいと願います。
そして、これも記憶を取り戻させる一環なのか、かつて自分が生まれ育った町を体操の練習場所として指定された太一は、そこで自分が愛情を抱いていた、赤城榛名と再会。
「はじめまして」、とお互いに挨拶を交わすんですが、このやり取りがまた読者の胸を痛めるというか……。
さて、体操を再び始めた太一ですが、やはり身体が覚えていたのか。
記憶を無くしているのが嘘であるかのように、その腕前はメキメキと上達。
ついには、世界選手権の出場の権利を得る程となります。
しかし、体操の腕前が上達しても、太一の心はどこか満たされませんでした。
失った記憶。
それが、未だ全てを取り戻せていないのです。
そして、その失った記憶の中には、榛名への愛情もあるのです。
切ないなー(泣)
しかし、おぼろげではありますが、太一はいくつか記憶を取り戻していきます。
それは、ライバルである「あいつ」との記憶。
はい、ここでタイトルである、「空のキャンバス」の意味が、ようやく回収されます。
「空のキャンバス」
それは、「あいつ」が太一に向けて体操を用いて描いた、夢という絵画の舞台だったのですね。
さて、世界選手権に話を戻しますが、ここで太一は大活躍。
ダークホース、とも言われていた太一の健闘により、日本チームは団体で銀メダルを獲得するに至ります。
しかし、ここで太一の身体に、ある異変が起こります。
手術により、危機的状況を回避したかに見えた、太一を襲っていた麻痺。
それが、再び太一に襲いかかってきたのです。
「全身マヒです、脊椎をやられて……。
個人差はあるにしろ、身体の自由がきかなくなる。
そして、末期症状は決まっている。
やがては神経障害が脳まで達し、目をやられる」
太一を診断した、主治医の弁です。
実際、以前このブログで取り上げたあずさは、視神経の麻痺で自身の死期を悟り、そのまま死んでいきましたし。
その、視神経の麻痺。
それが、ついに世界選手権で奮闘する太一に襲いかかってきたのです。
すると、太一はあずさと同じく自らの死期を悟ったのか。
ホテルの自室に、こんなモノを残していきました。
あずさの時にも見た、糸の切れた千羽鶴です。
これを見た榛名は、太一の
「決死の覚悟」
を読み取り、当然というべきか太一に世界選手権での演技の中止を強く求めます。
しかし、太一はそれを頑なに拒否。
何故か。
かつて、ライバルであった「あいつ」こと榛名と交わした、「男と男の約束」
「いつか、君より凄い技をやって勝ってみせる」
その約束を、太一はこの世界選手権という舞台で果たしたいが為です。
ちなみに、太一が「約束の成就」として設定したのは、世界選手権の個人戦において金メダルを取る事。
しかし、視神経にまで麻痺が及びはじめ、息も絶え絶えになりはじめた太一にとってそれは、果てしなく困難な道。
優勝どころか、今すぐ入院し、しかるべき処置を取らねばならぬ程、太一は危険な状態なのです。
が、太一は制止する榛名を振り切り、「男と男の約束」を果たす為、世界選手権という舞台へと走っていきました。
そして、四種目連続で10点満点という離れ業の結果、太一はついに個人戦トップに躍り出ます。
しかし、二位であるストロガ選手が奮起。
太一は、最後の床でも10点満点を出さなければ金メダルを取れない、という窮地に追い込まれました。
が、ここで太一は
「体操競技、始まって以来の奇跡」
を、起こします。
体操を見知った者なら、誰でも「不可能」と口にする大技。
「後方伸身3回宙返り・3回ひねり」
という、怪物級の技をフィニッシュに繰り出し、見事金メダルを獲得するに至るのです!
ちなみに、この大技の着地の際、太一はラインオーバーしちゃうのですが、奇跡的な大技を見た審査員は感動のあまり、
「ラインオーバーが、なんぼのもんじゃい!」
と、全員が10点を出すという異常事態に!
それだけ、太一の演技に心をとらわれた、って事ですやね。
素晴らしいやね。
が、肝心の太一。
着地のポーズで固まり、そのまま動かなくなりました。
まさか……。
事情を知った人間が、皆、太一の元へ駆け寄ろうとしましたが、その中をかき分けて太一へと歩んでいったのは、赤城榛名。
というより、この状況下で太一の元へ最初に行く権利のある人間は、赤城榛名をおいて、他にはいませんでした。
「や、約束……、果たしたわね……。
わたしとの約束、みんな……」
動かないままでいる太一に対して、榛名。
涙をこらえているのか、途切れ途切れにゆっくりと話しかけていきます。
そして、太一の身体にハグ。
その後、榛名が続けた言葉は
「ありがとう……、そして……。
おつかれさま」
でした。
この、「おつかれさま」は、約束を果たした事に対する「おつかれさま」なのか。
それとも、「男と男の約束」を支えとしてきた、太一の「生」に対しての「おつかれさま」なのか。
その解釈は、様々でしょう。
そして、その解釈を僕がココでどうこう言うのは、ちょっと控えておきます。
この、「おつかれさま」の答えは、皆様の心の中に一つ一つに存在すると思いますしね。
ちなみに、この世界選手権には赤城榛名も出場していたのですが、この大会での優勝を機に、体操界からの引退を表明。
事情を知らないマスコミは、当然その理由を問いますが、彼女はノーコメントを貫いたとの事でした。
その後、コーチとなった赤城榛名は日本体操黄金時代を築く、立役者に。
今をときめく、内村航平や白井健三も赤城榛名の師事を受けたりしているのかもですね。
そして、後に出版された
「コブだらけのヒーローに捧ぐ」
という自叙伝において、赤城榛名は最後をこう結んでおります。
「北野太一は、どこへも行かない。
なぜなら、彼は私にとってたった一人の、そして永遠のライバルなのだから。
見上げればいつでも、彼は私に最高の演技を見せてくれる。
そう……、空のキャンバスに……」
「空のキャンバス」
それは、太一と榛名の二人が、互いの夢を描いた場所だったのかもですね。
さて、最後に文庫本のあとがきに書かれている、この漫画につけられた「キャッチフレーズ」を紹介して、このブログを終えたいと思います。
「どんなにドジでもマヌケでも、私のヒーロー10.00」
うん、榛名にとって太一という存在。
それはまさしく、「10.00」だったのではないでしょうか。
バックナンバー。
「ジャンプ史上、最大の泣き漫画『空のキャンバス』について語ってみる」