はい、今回も語ります。
「空のキャンバス」
えー、前回と前々回。
主人公の太一と同じ障害を持つ、あずさという少女が
「亡くなった」
という話を、長々とさせていただきました。
ちなみに、前回は焦点を「あずさの死」のみにあてていた為書かなかったのですが、実は彼女は死の間際。
こんな願いを、赤城榛名に託しております。
「世界チャンピオンになって」
うん、このシーンだけ抜粋されても、
わけわかめ、ですやね。
という訳で、詳細を語りたいのですが、その前に「空キャン」に関する、この基本設定は皆様押さえていただきたいです。
●主人公北野太一は幼少期、月面宙返り(ムーンサルト)など、天才的な技を繰り出す「あいつ」と、体操において「絶対に勝つ」と「男と男の約束」を交わす。
●しかし、「男と男の約束」を交わした「あいつ」は女の子であった。
●太一は、「あいつ」を命懸けで救出した事により、脊髄を損傷し、いつ全身麻痺を引き起こしてもおかしくない障害を負った。
このブログの、「空キャンシリーズ」を読んでいる方には、もはや説明不要な設定なのですが、初見の方もおられるかもですので、改めて説明させていただきました。
ちなみに、上記に挙げた「男と男の約束」を交わした、ライバルの「あいつ」が女の子であった。
この件に関しては、「あいつ」本人である、赤城榛名をはじめ、誰もその真相を太一に語ろうとはしません。
何故なら、太一は「男と男の約束」を、自身の「生」の支えとしているからです。
その約束が、反故される事態に陥れば、太一にはいつ「死」が襲ってもおかしくないのですよね。
実際、前回のブログで取り上げたあずさは、その支えとなる「男と男の約束」が無いが為に、この世から去りましたしね……。
さて、太一が交わした、この「男と男の約束」ですが、実は太一が出場した「共演会」という大会において、成就しそうな事態に陥ります。
んっ、この風貌。
どこかで、見た事ありますやね?
そうです。
「空キャン」を語る上で欠かす事の出来ない最重要人物。
「あいつ」こと、幼少期の
赤城榛名に、そっくりじゃないですか!
↓↓
(※ 「あいつ」こと、赤城榛名)
しかし、先に取り上げた少年は「あいつ」とは別人。
五十嵐俊という、「あいつ」と瓜二つの少年なのですよね。
で、この五十嵐くん。
榛名への恋心やら、太一への憧憬やらが重なり、
「僕が君の本当のライバルだ」
と、嘘をつくのですが、太一はそれをすっかりと信じ込んでしまいます。
で、共演会で五十嵐と名勝負を繰り広げ、「あいつ」を自称する五十嵐くんに太一は勝ちそうになるんですが、ここで「あいつ」本人である榛名をはじめ、真相を知っている人間は一抹の不安を抱きます。
『ライバル(あいつ)と思い込んでいる、五十嵐に太一が勝ってしまったら、太一の夢はどこにいってしまうの?』
うん、改めて書きますが、太一の「生」を支えているのは、「あいつ」との「男と男の約束」なのですよね。
その生き甲斐としている「男と男の約束」が成就されれば、太一の「生」が危うくなる、と考えるのは自然の流れですやね。
だから、
『「男と男の約束」を交わした「あいつ」は女の子だった』
という真相を皆、隠している訳ですが、この真相はいつまでも隠しきれるモノではありません。
太一が体操で活躍すればするほど、「あいつ」がその舞台に出て来ないってのは、不自然な流れになってきますからね。
はい、ここでようやく、あずさが榛名に対して言った
「世界チャンピオンになって」
という想いが、繋がってきます。
実は言うとあずさは、榛名が太一の
「本当のライバル」
という事に、いち早く気付いておりました。
何故気付いたのかというと、
「私の為に死んじゃうとか、嫌……」
という、病院で榛名が泣き崩れる様を見たからです。
同時にあずさは、太一と榛名。
双方がお互いに恋心を抱いている事も、確信。
あずさも、太一の事が好き、なのにね。
うーむ、胸が痛くなるシーンというか……。
さて、話を戻しますが、何故
「世界チャンピオンになって」
というあずさの想いが、太一と「あいつ」(榛名)が交わした、「男と男の約束」に繋がってくるのでしょうか。
榛名は、女の子です。
太一がどれだけ、体操という舞台で活躍しても、男子と女子という性別の違いから、直接対決は出来ないのです。
しかし、あずさは
「太一くんに、負けないで」
と、息絶え絶えで榛名に対して懇願します。
はて、「負けないで」とは……?
どういう事かと言いますと、自分がライバルと思い込んでいた「あいつ」が「女の子」
つまり、榛名だった、という真相を知れば、太一は恐らく愕然としてしまうでしょう。
しかし、その榛名が
「世界チャンピオン」という立場になれば、太一はどう思うでしょうか?
「自分がライバルと思い込んでいた『あいつ』は女の子だったけど、世界チャンピオンになる程、凄い奴だったんだな」
こう思う事で、心理的ダメージが軽減される可能性が高いのです。
実際、榛名は太一に
「自分が本当のライバル」
と、打ち明ける決意をする場面が二度あるのですが、その内の一回は「ジャパンカップ」という世界規模の大会で、チャンピオンになった時ですし。
(※ちなみに、もう一回は「共演会」で擬似ライバルの五十嵐が負傷退場。
その事で太一が絶望し、榛名が「真相を話すしかない」とやむ無く決意するのですが、すんでのトコロで、それを五十嵐から止められている)
さて、このあずさが残した
「世界チャンピオンになって」
という遺言から、「空キャン」という物語は、ワールドワイドな物語へと展開します。
恋と体操において、榛名のライバルであった蓼科さんは、舞台が国内から世界に移った事により、あっさりと物語からフェードアウト。
代わりに、エレナ・シュトロワというライバルが登場し、共演会を優勝した太一も、特別強化選手として他の有望選手と共に合宿生活を行います。
すわ、本格体操漫画への突入か。
強化合宿なり、舞台が世界になりつつある事で、我々読者はそんな思いを「空キャン」に抱きつつありましたが、その展開は我々読者が求めていたモノではありませんでした。
結果論ではありますが、「空キャン」の売り。
それは、体操を舞台として繰り広げられる、榛名と太一のつかず離れずのラブストーリーだったのですよねー。
しかし、五十嵐と太一が繰り広げた、体操バトルのスマッシュヒットで、作者も編集も「あいつ」との出会いを嚆矢とした
「本格体操漫画」
への変更もアリと判断したのか。
ストーリーが、ぐいっと「本格体操漫画」へと変更される訳ですが、共演会以後の「空キャン」は、どこか
「何を描くべきか」
と、迷走ぶりが散見されます。
前述の強化合宿も、なぁんかうやむやになってますしね……。
まぁしかし、これは当然の帰結です。
五十嵐と太一との対決が盛り上がったのは、「あずさの死」というショッキングな出来事もさる事ながら、「擬似ライバル」として五十嵐が太一の前に立ちはだかったのが、要因ですからね。
このピークを越えるには、本物のライバルである「あいつ」(榛名)との直接対決しかない訳ですが、それは性別の理由で不可能。
かといって、他のどうでもいい人間と太一が体操で対決しても、盛り上がる訳でも無い。
以上の理由から、「空キャン」は迷走しちゃう訳ですが、この迷走ぶりが、当時「ドラゴンボール」やら「北斗の拳」やら、人気漫画満載のジャンプ内では命取りになってしまいました。
「空キャン」の人気と盛り上がりは、群雄割拠なジャンプ内で徐々に降下。
その結果、「空キャン」はあえなく連載終了の憂き目となってしまいます。
すると、連載終了が決まったせいか、後半のストーリー展開は駆け足そのもの。
80年代に人気をはくした、大映ドラマを彷彿とさせる、ショッキングなストーリー展開が「空キャン」に巻き起こります!
しかぁし、それを語るのは次回!
そして、次回がこのブログにおいて「空キャン」を語る、最終回となります。
……おっと。
「えぇーー」という声が、聞こえてくるようなこないような(笑)
まぁ、それはともかくとして、次回もそれ以降も、このブログを読んでいただけたら幸いです。
「空キャン」以外にも、色々と書きたいですし。
それでは、また会いましょう。
アディダス。
( - 3-)ノ
※バックナンバー。
「ジャンプ史上最大の泣き漫画、空のキャンバスについて語ってみる」