星空
夕食後、スターライトホテル自慢の温泉に入った。
佳代はもう少しかかりそうとのことだったので、
湯冷めしないようにお風呂用品を持って先に部屋に戻ろうと歩いていた。
ロビーの窓にふと目をやると、窓越しからでも夜空の星が綺麗で、星が生き生きと輝いている姿があまりにも美しすぎて、玄関から外へ出てしばらく一人で夜空を眺めていた。
あーーー、きれいだわーーー
ホント、時間を忘れるわーーー
北海道来てよかったーーー
リフレッシュ最高ーーー
とオッサン化しつつある発言に気付いていない自分に幸せを感じていたら
「あの」
不意に遠くから呼ばれた。
「そんなところで何してるんですかー?」
振り向いてその声の主を見つけた。
湯上りの富松だ。
浴衣姿の富松は妙に色気があり、身長が高いせいで浴衣の丈が少し足りず、足首が出たままだ。
引き締まった脚が歩くたびに裾から見え隠れする。
まだ乾ききっていない髪をタオルでゴシゴシと拭きながらこちらに近付いてきて、無造作になった髪もあまり気にしていない。
どーも、と軽く会釈をされ隣に座られると、せっけんの香りがしてきた。
どうしたらいいのかドギマギしていたが、富松はすぐに夜空を見上げるので私もそうすることにした。
「綺麗ですよね」
はい?
「本当綺麗ですよ」
とこちらをチラっと見て目が合ったかと思うと、すぐにまた夜空へと視線を移す。
…私…が?
だだだだだだいじょうぶ?
おおおおおお風呂上がりですっぴんですけど?
ししししし視力検査したほうがいいんじゃないかな?
撮影
「じゃあ早速、写真撮って」
「いいけど、誰が撮るんだよ」
「越川」
「俺!?!?
俺と撮りたいんじゃないの!?!?!?」
「先に富松さんから、こう、両手に華的な感じで」
「何が華だよ!
ったく、しゃーねーなー」
ブツブツ文句を言う越川にカメラを渡し、
左から私・富松・佳代の順番に並び、1枚写真を撮った。
「これでいーかー?」
念のためチェックをしろ、と差し出されたカメラの液晶を覗くと
私と佳代はいい笑顔で写っているのだが、
富松がパッとしない。
「もう1枚」
えーまたー?俺練習で疲れてんだけどーっていう声が聞こえたような気もするけど
気にしないで撮影した位置に戻った。
横から富松を見上げるとどこか緊張気味。
口角がピクピクしてる。
ピクピクっ
ピクピクっ
「何ですか!?」
あ、気づかれた。
「もしかして写真苦手ですか?」
「わかります?」
「あの、無理矢理口角を上げようとするから微妙な表情になるんですよ。
頬骨を上げるようにすると自然に口角も上がって笑顔になりますから。
ほら、こういう風に。」
ニッ、と実践してみた。
「なるほど!こんな感じです?」
今度は富松が実践した。
「うん、さっきよりも全然いい感じですよ。」
ぱしゃっっ
富松はそのままの表情を保ち撮影に挑んだ。
出来上がりを見ると、
3人とも、うん、いい感じ。
物好き
北海道旅行は3泊4日の日程で、旅行日程は以下の通り。
1日目:10時 羽田空港発
11時半 新千歳空港着
12時半 札幌到着
札幌観光(札幌泊)
2日目:9時 札幌発
14時半 芦別着
スターライトホテルチェックイン
15時半 全日本男子合宿見学
(芦別泊)
3日目:午前 全日本合宿見学
午後 芦別・富良野周辺観光
(芦別泊)
4日目:10時 芦別発
12時 旭川空港着
13時 旭川空港発
14時半 羽田空港着
終了
今は2日目の18時。
午後から全日本男子合宿の練習見学に来ている。
「幼なじみがこんなとこ(練習見学)に来るなんて珍しいな」
富松がポロっと口に出した。
肌は白く、日焼けしても赤く火照って肌が黒くなるなんてなさそうである。
手足が長く、目は細い。
「来ないもんなんですか?」
「そうだね、僕の場合は」
「そんな物好きお前だけだっつーの」
皮肉混じりで突っ込む越川に対して
物好きでごめんなさいねー
バレーはあまりメジャーじゃないものでねー
早く世界で結果残してくださいねー
そうしたら私も胸張ってバレー好きを周りに公言できますからー
と喉元まで出かかったが、さすがにここは触れてはいけない部分だと思ったので言葉をグンと飲み込んだ。
動機
越川に再会したのは20歳のときだった。
私は大学で忙しくバレーとはかけ離れた生活を送っていたが、
アテネオリンピック最終予選のテレビで見た山本隆弘に一目ぼれし(当時の山本隆弘は本当にかっこよかった)、
全日本男子のことを知っていくうちに
越川がOQT最終選考には落ちたがその手前の選考まで残っていたという情報を得た。
それから越川がサントリーというチームに所属している、
しかも大阪が拠点である、
練習見学は可能である、
という薄っぺらい情報を頼りに、
大阪にあるサントリーの体育館に行ってみた。
すると本当にいた。
(当たり前か。)
しかし本当の姿を見たことで嬉しさと共に湧き上がってきた感情は、後悔だった。
こんなとこまで来たけど私のことなんて覚えてないんじゃないか、小学生の頃なんて何年も前すぎだろっ!!?って。
説明しても「誰?」って思われかねない。
自分をどう説明していいかわからない。
こうした不安や心配が頭の中をかけめぐるが、最終的には出たとこ勝負だ!と腹をくくって、練習後思い切って越川に声をかけることにした。
「覚えてるよ。
木村っぽい人がいるなー見間違いかなーと思ってた。
てかお前全然変わってねーなー(^O^)」
幸いなことに私のことを覚えてくれていた。
飛び上がるほど嬉しかった。
さらに越川は内面的にさほど変わっておらず、越川も金沢時代の知り合いと会うのは久しぶりだったようで、すぐに打ち解けることができた。
お金はないけど時間ならたっぷりある大学生という立場だったこともあり、
それからは年に1~2回は大阪まで越川の顔を見に行き、
もちろんVリーグなどの試合も頻繁に観戦するようになった。
だが社会人になってからはお金はあるけど時間がない大学時代とは真逆の環境になり、
越川ともバレーとも疎遠になっていった。
それで突然だけど社会人4年目の夏、全く会っていなかった越川の顔を見に行こうと北海道旅行を思い立ったのだった。
さすがに旅行は一人だと寂しいので佳代も誘った、という経緯である。
関係
「で、二人はどういう関係なのぉ?」
向かいの二人を意識して女声、つまりは甘ったるい声で佳代は尋ねた。
「関係っつってもなー」
「そうだよね、今更な感じだけど」
「まあ、あえて言うなら・・・」
「「幼なじみ」」
越川とハモってしまった。
「「へぇーーーー!!」」
二人にハモられてしまった。
なんだかむずがゆくなってしまった。
幼なじみといっても
同じ小学校だったぐらいで、
越川はそれから転校してしまったので
それ以降の共通点はない。
私は高校までバレー部には入っていたが
高校が進学校で学業優先だったため
部活は県大会1回戦に勝てればいいぐらいのレベルだった。
それからあることが理由で途中で退部し、普通に大学進学。
そんな私を尻目に越川は長野の高校へバレー進学し、
全国大会入賞の常連に。
高校卒業後は本人の意向もあり大学進学ではなくサントリーに入社していった。