三日月に乗った少年
宇宙アナコンダが月を食っちまったもんだから、地球の夜はまるで風情がなくなっちまった。
抜けない釘があるように、もうこの惑星には愛を扮するだけのデリカシーすらないようだ。
西の上空1900メートル "銀河ステーション"。
ロックショーのやうにシグナルが明滅し、闇夜をはびこります。
ステーションに女性駅員の黴びた声が反響する。そのアナウンスには、肉欲に失意を無理矢理はめこんだ様なエロティシズムを感じた。
列車はJAPAN製 人工衛星「ニラもやし」に向けて出発した。
僕が乗った列車は鍾乳石と同じ組成で塗装されていて、窓は鮟鱇(アンコウ)のかたち。
びゅんびゅん。
びゅんびゅんびゅん。
走るる。
薄暗い車内にはランプが吊るされていて、その間隔は均等に非らず。
やや斜め。
それで、平衡を維持する。
よく揺れる。
それは、世界と人の不安定さを乗算する。
それは曖昧なほど、深く美しかった。
揺らぎ、揺ろめく。
明るさ故に小蝿がたかる か。
車内には小さな女の子がひとり。
ぽつりと座つている。
女の子の隣には、あのカバ左衛門が座つていた。カバ左衛門は顔がカバだった。心はタンポポだった。
小さい女の子は、
袋にね 星屑をいっぱい集めて、
はみ出した...。
列車が夜空をチュロスのように、大きく旋回し始めた。
列車はいよいよ姿を変えて。
ひぐらしの様な声あげて。
溶解した。
それは秘め事の様相に溢れた美と訝しさを募らせて。
そしてそれは人間じみた と言えば、人間じみた。
翌の形態になり変わるひとつ手前で、列車は小さく呼吸する。
最も美しい瞬間よ。
羽化の最終段階に於いて、本当に最後の最後で、どうやら鳩が挟まった。
これでは列車は、完全な羽化は出来まい。
列車は西南の上空2300メートルのとこで停止した。
列車は唐の漢文のような音韻を出している。小さくか細いロックンロールのような…。
あの少女が鳩を取り出して、
砕いた。
それはもうマリア様のやうな光景でした。
列車の連結部が打撲していた。
慌ただしい煙がもくもくとたなびく。
そこから鉛色の廃液が湛えた。
そいつは精液の匂いがした。
悪魔の誕生を演出するような煙の向こうに、三日月が冷ややかに笑う。
まるで、
連結部の悲しみが生み出した、三日月。
私は三日月に跨ることにした。
空は漆黒で少しだけ涙ぐむ。
遥か下方に見える街並みの灯りは、おとぎの国の歯磨き粉。
そろそろ行かなくっちゃ。
小さな女の子がすぐ隣で笑ってる。
カバ座衛門は背丈が12cm伸びた。
小さな女の子は、小さな女の子の皮を被った「柔らかいカルマ」だ。
三日月は宇宙アナコンダに食われて表面が爛れていた。
小さな女の子が袋の中から星屑を取り出して、患部に塗りつけると、三日月は元気一杯になった!
僕は三日月を発車させた。
小さな女の子が笑ってる。
宇宙に向かうんだ。
うんと宇宙まで。
僕の冒険は続くんだ。
うんと宇宙まで。
ビスケットを食べながら…。
批判を因数分解したような宇宙のカーペット。薄く引き延ばした夏の夜のざわめきがずっとずっと続いてる…。
ビスケットの食いカスを、火の鳥がついばむ。
上下に揺れるハスキーな音。
左右に揺れる薄いライムの薫り。
宇宙の旅は、僕の旅は、果てしなく。
満点の星は宇宙の雨のように。
希望だとか、夢だとか、そんなのはまぁるくなって、とっくに小っちゃくなった。
音や反応が無限大に連なって、それは両手で抱えきれない、有り余る一部になった。
一部だし、全部。
だから、ひとつひとつの呼吸を大切にしなきゃって思ったんだ。
少年はいつまでも周り続けるだろう。
月は軌道に内包されていることも知らずに。
少年は何万光年もかけて周り続けるだろう。
自分が回ってるとも知らずに…。
でもね、それでいいんだよ。
間違っててもそれでいい。
楽しければそれでいいんだよ。
抜けない釘があるように、もうこの惑星には愛を扮するだけのデリカシーすらないようだ。
西の上空1900メートル "銀河ステーション"。
ロックショーのやうにシグナルが明滅し、闇夜をはびこります。
ステーションに女性駅員の黴びた声が反響する。そのアナウンスには、肉欲に失意を無理矢理はめこんだ様なエロティシズムを感じた。
列車はJAPAN製 人工衛星「ニラもやし」に向けて出発した。
僕が乗った列車は鍾乳石と同じ組成で塗装されていて、窓は鮟鱇(アンコウ)のかたち。
びゅんびゅん。
びゅんびゅんびゅん。
走るる。
薄暗い車内にはランプが吊るされていて、その間隔は均等に非らず。
やや斜め。
それで、平衡を維持する。
よく揺れる。
それは、世界と人の不安定さを乗算する。
それは曖昧なほど、深く美しかった。
揺らぎ、揺ろめく。
明るさ故に小蝿がたかる か。
車内には小さな女の子がひとり。
ぽつりと座つている。
女の子の隣には、あのカバ左衛門が座つていた。カバ左衛門は顔がカバだった。心はタンポポだった。
小さい女の子は、
袋にね 星屑をいっぱい集めて、
はみ出した...。
列車が夜空をチュロスのように、大きく旋回し始めた。
列車はいよいよ姿を変えて。
ひぐらしの様な声あげて。
溶解した。
それは秘め事の様相に溢れた美と訝しさを募らせて。
そしてそれは人間じみた と言えば、人間じみた。
翌の形態になり変わるひとつ手前で、列車は小さく呼吸する。
最も美しい瞬間よ。
羽化の最終段階に於いて、本当に最後の最後で、どうやら鳩が挟まった。
これでは列車は、完全な羽化は出来まい。
列車は西南の上空2300メートルのとこで停止した。
列車は唐の漢文のような音韻を出している。小さくか細いロックンロールのような…。
あの少女が鳩を取り出して、
砕いた。
それはもうマリア様のやうな光景でした。
列車の連結部が打撲していた。
慌ただしい煙がもくもくとたなびく。
そこから鉛色の廃液が湛えた。
そいつは精液の匂いがした。
悪魔の誕生を演出するような煙の向こうに、三日月が冷ややかに笑う。
まるで、
連結部の悲しみが生み出した、三日月。
私は三日月に跨ることにした。
空は漆黒で少しだけ涙ぐむ。
遥か下方に見える街並みの灯りは、おとぎの国の歯磨き粉。
そろそろ行かなくっちゃ。
小さな女の子がすぐ隣で笑ってる。
カバ座衛門は背丈が12cm伸びた。
小さな女の子は、小さな女の子の皮を被った「柔らかいカルマ」だ。
三日月は宇宙アナコンダに食われて表面が爛れていた。
小さな女の子が袋の中から星屑を取り出して、患部に塗りつけると、三日月は元気一杯になった!
僕は三日月を発車させた。
小さな女の子が笑ってる。
宇宙に向かうんだ。
うんと宇宙まで。
僕の冒険は続くんだ。
うんと宇宙まで。
ビスケットを食べながら…。
批判を因数分解したような宇宙のカーペット。薄く引き延ばした夏の夜のざわめきがずっとずっと続いてる…。
ビスケットの食いカスを、火の鳥がついばむ。
上下に揺れるハスキーな音。
左右に揺れる薄いライムの薫り。
宇宙の旅は、僕の旅は、果てしなく。
満点の星は宇宙の雨のように。
希望だとか、夢だとか、そんなのはまぁるくなって、とっくに小っちゃくなった。
音や反応が無限大に連なって、それは両手で抱えきれない、有り余る一部になった。
一部だし、全部。
だから、ひとつひとつの呼吸を大切にしなきゃって思ったんだ。
少年はいつまでも周り続けるだろう。
月は軌道に内包されていることも知らずに。
少年は何万光年もかけて周り続けるだろう。
自分が回ってるとも知らずに…。
でもね、それでいいんだよ。
間違っててもそれでいい。
楽しければそれでいいんだよ。