「余命3カ月」から我、生還せりという文章が文芸春秋11月号に掲載されたので、(コピーをもらって)読んでみた。文春らしくセンセーショナルなタイトルだ。
同病の私のケースと比較しながら考察してみよう。
 
昨年8月三田病院(かかりつけ)の医師から「骨の数値(通常の5倍)に異常」と言われ、唐津赤十字病院で検査をしたところ「がんの転移」と推定された。転移元を調べるために大腸・胃・肝臓・・と調べて最後に肺がんと判明し、ステージ4、余命半年の宣告があった。
私の場合は数か月の原因不明腰痛を経て、本年4月のMRI検査で腰椎の異常(画像上の異常であって数値化されるものではない)が見つかり、CT検査で肺や前立腺の画像にがんの疑いが見られた。「骨の数値」というのは皆目見当がつかないので大林監督の理解不足ということにしておこう。なんで下手な鉄砲のようにあちこちを調べるのか意味不明だ。肺は真っ先に疑ってもおかしくない。レントゲンでも異常は分かったはずだ。私もステージ4と言われた。しかし余命は言われていない(ここがポイント)。前にも書いたがどこかにがんがあって遠隔転移があれば自動的にステージ4であって、余命など言えるはずもない。これはよほど時代錯誤的な医師なのか、大林氏の即治療開始を促すための脅し文句だったのか・・。
 
がん宣告を受けた時、彼は「まったく悲観的な感情を抱くこと」はなかったと言っているが、その点は全く同じだ。しかし撮影中の映画の原作者と同じ病気だとわかって「涙が出るくらいうれしかった」と書いているが、ここは同感しない。嬉しいとか悲しいではなく「今までとは違う生活が始まること」については身が引き締まった。
 
2日後に病院で「余命3カ月」と言われて驚く、「二日前は半年だったのに」・・・これも医師の大げさな脅しに違いない・・まだ彼の詳しい病状や治療法は確定していないのだから・・・。
仕事(撮影)を続けたいので、帝京大学付属病院の先生に診てもらう。「3週間入院して、種々検査をして、治療方針を決めましょう」と言われる。
私の場合は2泊3日の検査入院(気管支鏡検査)で病気を確定し、遺伝子検査などをやって治療法を決めることになった。因みに、肺がんの腫瘍マーカーは陰性だった(今でも陰性)。
 
病院からの連絡でイレッサ服用を中心に治療が始まることになった。イレッサは主に手術不可の肺がん患者の治療薬で、EGFR遺伝子変異陽性の患者が対象になる。
私もEGFR遺伝子変異陽性でイレッサより新しい薬ジオトリフの使用が決まった。
 
彼は「腺がん」にも効く薬と言われたが自分は当てはまらないと書いている。彼が無知なのか肺腺がんではないのかはわからない。一方の私は肺腺がんであることが確定していた。
 
薬が見つかったことを彼は「奇跡」と書いているけど、そんなことはない・・。EGFR遺伝子変異陽性ならかなり高い確率で薬は効くのだから、その検査をする前に余命半年とか3カ月とかいうのはけしからん話である。この薬が効くことが分かれば、1年以上は生き延びる。
 
今年の3月、腫瘍マーカー数値が上がったらしい。私は依然として陰性。レントゲンで骨の転移はほとんどなくなったという・・レントゲンではわからないはず、MRIで見てもなくなったというのはあまりにも楽観的な判断だ。脳に転移の可能性があるということで10日間放射線治療を受けて髪の毛が抜け、そのとき服用したまずい経口薬のせいで味覚異常になったと言う。
私は治療法が確定した後、2週間入院した。病人とは言えない状態であり、副作用の様子を確認するための入院だったようだ。副作用は軽視すると死亡に至ることはイレッサ事件でも知られている。なお下痢の副作用は一過性で、口内炎の副作用はいったん休薬になって、再開して問題ないことを確認して退院となった。なお一時的に味覚に変調をきたしたこともあったが今は普通だ。
 
「脳転移の可能性」というのはやばい。私の場合は「脳転移はなかった」と聞いている。可能性だけで放射線治療をやるものだろうか? そういう意味では私より悲観的かもしれない。
何種類かの抗がん剤をアレンジして点滴しているらしい。私より彼のほうが高齢だけど・・私はそんな複雑な治療を受けていない。骨転移に対応するランマーク注射を1か月に1回してもらっていて、これの副作用とみられる高血圧や軽い息苦しさは出たけど・・。
 
「危機的な状況は乗り越えることができた」と書いているが、楽観的な性格がなせる業だろう。イレッサ(私の場合はジオトリフ)の薬剤耐性が現れる1年半を経てみないと、乗り越えたとは言えない。そして何回も同様の山を越えて初めて乗り越えたと言える。私も楽観的なほうだが「乗り越えた」などとは思わない。「どこかで乗り越えられなくても、それはそれで構わない、それまでは肺腺がんを楽しむのだ」という心境だ。彼は間もなく1年半を迎えるが、私はまだ7カ月・・・まだまだ先行き不透明。