写真は長女と一緒に北欧旅行したときに買ってきたニシンの燻製のオイル漬けの缶詰だ。ノルウェーのベルゲンの市場で買ったものだが、なぜかデンマーク製だった。KIPPERというのはニシンの燻製のオイル漬けのことらしく、欧米人は主に朝食に食するらしい。ほったらかしにしていたのでどうかなと思ったがまずまずの味(オイルと塩の味付けのみ)だった。
興味深かったのは缶の裏に印刷されている食品成分だ。
日本では食用油に関して関心が低かったり間違った認識を持っている人が多い。従って、日本の食品の成分表には100gあたりの「脂肪」分の表記があるだけだ。あるいは成分の多い順に記載された中に「植物油」と記載があるだけというのが普通だ。
この缶詰に印刷されている100g中の成分の中で油脂に関するものは以下の通りになっている。
脂肪:19g
内訳として
飽和脂肪酸:4.1g
一価不飽和脂肪酸:5.6g
多価不飽和脂肪酸:5.8g
オメガ3脂肪酸:3.9g
実はオメガ3(ω-3)脂肪酸は多価不飽和脂肪酸の一種だが、これだけ別記されているのだ。そして続いて宣伝文句として「rich in Omega-3」と記載されている。
日本人は「脂肪の摂取は少ないほうがいい」「コレステロールの少ない食用油がいい」「植物油がいい」といった「単純な思い込み:多くは誤解」をしている。それは業界がそのようにリードしていることに他ならないのだが・・・。一方、多価不飽和脂肪酸の一部は必須脂肪酸である。なぜ必須なのかと言うと、脳神経系の成長あるいは維持・再構築に必要だからである。しかし過剰な摂取がダイエットの敵であることには変わりない。
なぜヨーロッパの(欧米の?)食品はω3が豊富なことを宣伝するのか? それは多価不飽和脂肪酸の中でω6の偏った摂取が問題とされているからだ。日本人の多くはまだ気付いていない。
実はω3の主要なものとしては有名なEPA(エイコサペンタエン酸)、DHA(ドコサヘキサエン酸)があり、昔の日本人はこれらを主に魚で摂取していた。そのおかげで非常にバランスの取れた脂肪酸摂取をしていたのだ。それが魚より肉の食生活に移行し、さらに「動物油が身体によくない」と教えられて、マヨネーズもドレッシングも天ぷら・フライも摂取する食用油のほとんどが植物油になったのだ。
典型的な植物油の多くは飽和ないしは一価不飽和の脂肪酸の比率が多いが、その次に多いのはω6で、このため現代人はω6過剰摂取に陥っているのである。欧米人はそのことに気付いてω3が注目されるようになっているが、日本人の多くはまだ気付かされていない。
ω6の多い順で食用油を並べてみると、紅花油→大豆油・コーン油→ごま油→菜種油→オリーブ油となる。ω6過剰摂取を避けるには紅花油・大豆油等を避けてオリーブ油を使うのが望ましい。しかし残念なことにこれらの油のω3成分は非常に少ない。植物油でもしそ油(えごま油)や亜麻仁油はω3が脂肪酸成分の半分以上を占めている・・・ただし大分高価だ。魚類・貝類・海藻類にはω6が少なく、ω3がそこそこ多く含まれるのでバランス上は大切な食品だ。
紅花油などに多く含まれるω6としてはリノール酸が代表的で、体内ではアラキドン酸などの必須脂肪酸に転換される。
しそ油などに多く含まれるω3としてはαリノレン酸が代表的で、体内ではEPAやDHAなどの必須脂肪酸に変わる。青魚を食べると頭がよくなるなどと言われるが、もっと根本的な人間の脳神経系の健全性の維持に大変重要な食品なのだ。
そして、だから・・・日本の食品メーカは脂肪酸の具体的な内訳を表示すべきなのである。気づいているはずの食品業界は、安価な植物油からの転換がコストアップになることを恐れ、静かにしているに過ぎない。「沈黙の罪」だ!