阪急交通社から送られてきた資料の中で特徴的なのは「高山病についてのご案内」だ。普通は高地登山でもしない限り縁のない話だが、ペルーの遺跡の多くは3000m以上の高地にあるから、一般旅行者が気をつけねばならないのだ。
資料では「激しい運動を避け、深呼吸をし、熱めの湯にはつからず、飲酒・喫煙・食べ過ぎを避け、十分に水分補給をする」よう勧めている。頭痛や嘔吐、下痢など症状が激しくなったら酸素吸入や内服薬治療も必要になるが完治するには下山するしかないと説明している。
一方で、唯一のペルー旅行ガイドブックの「地球の歩き方」は半ページを割いて在ペルー日本国大使館医務室のコメントを記載している。阪急の資料と同様なことを説明した上で、「予防薬の内服」に言及している。アセトソラミデまたはアセタゾラミダ(商品名ダイアモックス)は予防効果があるようなので医師に相談して服用するよう勧めているのだ。インターネットでダイアモックスを検索してみると、賛否両論が見られる。しかし、特に短期の服用において効かないことはあっても大きな問題はなさそうである。なぜならこの薬は緑内障の治療薬で、長期に連続服用しない限り目だった副作用はない。短期的には手足の先がしびれる、おしっこが近くなるという副作用があるだけだ。
妻の掛かりつけのクリニックで処方してももらった1週間分(朝夕食後1錠)を、私も使用することにした。価格は数百円で安いが、私が処方してもらうためには初診料が必要になって10倍のコストになってしまうので・・。そして、リマ(標高ゼロ近辺)からクスコ(3400m)に向かう朝から飲み始めた。その夜も飲んだが、一晩に3回も排尿のため起きてしまったので、翌日から朝だけにした。妻はその後も朝夕飲んだ。プーノ(3800m)に向かう服用4日目の朝は妻のみが服用し、その後は二人とも止めた。妻が7錠、私が4錠飲んだ勘定になる。5日目にはプーノを発ってリマに帰った。
その結果、私は期間中まったく症状を感じることがなかった。妻はクスコの1日目に軽い頭痛になったが、特に旅行の障害になるようなことはなかった。私は車や船で酔ったことがあるし、飛行機に乗ると着陸時に一時きつい耳痛(頭痛)になるので警戒したのだが、そういう意味では予防薬の服用は大成功だった。なお、しびれは服用後数時間から半日後(昼から夕方)に現れた。つまり、効き目が現れるのもそれくらい時間が必要だということになる。
ほかの参加者の様子はさまざまだった。Aさん夫婦は二人とも薬を飲んでいなかったが、奥さんが少し頭痛になったくらいで、ご主人はほとんど問題なかった。Bさん夫婦はご主人のみ事前に服用したところ、奥さんがクスコで頭痛になり、その時点で服用したがどんどん悪化して嘔吐するに至った。連鎖反応からかご主人も頭痛を感じるようになった。その後奥さんは酸素吸入を受けるなどして回復したが、添乗員の「薬は飲まないほうがよい」という助言に二人とも従った。ご主人は症状が続いた。一旦回復した奥さんもプーノでは症状が現れたが、重症には至らなかった。薬を飲まなかったCさんの奥さんはたびたび重症状態になって、プーノでは酸素吸入のほかに内服薬の投入を受けたが、もともと薬拒絶症の奥さんはすぐに吐き出したので、注射を受けてなんとか立て直した。薬はダイアモックスの可能性が大きいが確認できない。Dさん、Eさん(いずれも女性)は結構健康を害したが、元々の持病(胃腸病、アレルギー性鼻炎)の症状かもしれない。Cさんは事前に薬を飲んだが、しびれを感じたときに高山病になったと勘違いして空腹時にダイアモックスを追加服用して、胃痛が激しくなった。Dさんは服用していない。そのほかの人もほとんどの人が大なり小なり症状(多くは頭痛、下痢)を経験したようだ。
さて、上記の結果について皆さんはどう思うか? しっかりアンケートをとれば面白い(参考になる)結果が得られると思うのだが・・。旅行会社がダイアモックスの服用を勧めていないのは若干疑問が残る・・。

因みに高山病は英語でMountain SicknessまたはAltitude Sicknessと言われ、高地住民が低地に降りてきたときもまれに罹るのだそうだ。気圧(酸素濃度)の急激な変動に伴うもので、潜水病(Caisson Disease)も同様の病気(というより生体現象)であろう。「山酔い」とも言われるが、「船酔い」や「車酔い」とは症状は似ていても、原理的には異なる。

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イメージ 3なお、写真は上から二つはプーノ空港の看板と、高度表示である。ペットボトルの写真はプーノからリマに飛行機で向かう途中経過である。南米の国内線では持込が可能なので、4分の1ほど水を残してきっちり栓をしたものを持ち込んで撮影した。ボトルは日本のものよりもかなり柔らかい。左は上空(おそらく8000mから10000m)に達したとき、中はリマでの下降中、右はリマ着陸後である。まず、高度が上がっているのにボトルが潰れてきているのは、機内が与圧されているからだろう。下降を始めて外気圧が高くなると与圧を徐々に止めるようで、着陸時には外気圧と等しくなるようだ。形状からすると、上空では標高2000m相当程度に与圧されているらしい。つまり、これによって乗客が搭乗中に高山病に罹ることを防止しているようなのだ・・。耳が痛くなるのは、2000m相当の気圧から0m相当の気圧に急激に下がるからだ。因みに、私の場合、帰国まで後半の(5便の)着陸時耳痛はほとんどなかった。これも薬の効果だったのだろうか。