(勇悟、元気出しなよ)
搭乗時刻も近付いた空港で、ロックはうつむいて黙り込んでいる勇悟に、テレパシーで話しかけた。爆破事件以来警備が厳重になったが、やぱり旅行客で混雑している出発ロビーだ。
(二人とも初めて互いに理解し合える異性と出会ったものだから、その嬉しさを愛情と思い込んでしまったんだよ。しかも初めての恋で、盲目に会いに溺れようとして、傷ついてしまったんだ。誰が悪いわけでもないよ)
一生懸命慰める足もとの子犬に、勇悟はそっと笑いかけた。
(ありがとう、ロック)
場内に搭乗を急ぐようにと、アナウンスが流れていた。
(行こうか・・・)
勇悟が歩き始めた。
ロックはその背中を、まるで暗くさびしい道を、一人で駆けて行くランナーのようだと感じた。
そのとき一人の日本人の男が歌を口ずさみながら、とぼとぼと歩く彼らの横を足早に過ぎていった。
燃え尽きて落ちる家屋に
手向けとばかり花添えて
踏みしめる小道の傍らに
菫の香りほのかに
なぜ傷ついても
君一人耐え忍ぶ
Lonely way 駆けていくRunner
誰も誰も 止めることはできない
ロックが勇悟の顔を見上げた。一晩中何と声をかけようか悩んで、疲れ切った顔だった。
勇悟はそれまで浮かべていたさびしげな表情を消し、やさしい笑顔でロックを抱き上げた。
(さようなら、合衆国。さようなら、ハニー・・・)
彼らは一緒に心の中でつぶやいていた。
(さようなら、ジョン。さようなら、夢のような思い出たち)
やがて飛行機は、彼らを乗せて晴れた空へ飛び立った。
色あせて朽ちる写真に
面影いつも抱きしめて
ふるさとの親しい人影に
さらばと背中を見せて
呼ぶ人も無いが
君は立ち止まらない
Lonely way 駆けていくRunner
誰も誰も 止めることはできない・・・
Fin.