あとがき(ヒロの夢・デモの夜)



ヒロ「ユイさ…変な夢を見たんだよ。」


ユイ「うん。どんな夢?」


ヒロ「夜の街。雨が降っててさ。

交差点のところに人が集まってるんだよ。

デモだね。旗とかプラカードとか…声が波みたいにうねっててさ。」


ユイ「うん、音が“塊”になって押し寄せる感じ?」


ヒロ「そうそう。

でも、妙に変なんだよ。怒ってるのに、どこか冷めてる。

叫んでるのに、目が死んでる。

『変えろ!変えろ!』って言ってるのに、誰も“何をどう変えるか”を言わない。」


ユイ「夢って、核心だけ残して、説明を消すからね。」


ヒロ「でさ、そこにスーツの人たちが並んでて。

テレビカメラも来てる。

『国民の声を受け止めます』って言うんだけど…

その声の中身が、もう“誰かが作った台本”みたいなんだよ。」


ユイ「……怖いね。」


ヒロ「怖いよ。

それで、いつの間にか演説が始まってさ。

“新しい時代のために”とか、“秩序のために”とか、立派な言葉が並ぶ。

拍手が起きて、空気が決まっていくんだ。」


ユイ「決まっていく、っていうより…“決められていく”感じ?」


ヒロ「そう。

でね、ここからが一番変。

誰かがマイクで言うんだよ。


『もう選挙は要りません。混乱の原因です。』って。」


ユイ「……」


ヒロ「その瞬間、街が静かになる。

みんなホッとした顔をするんだよ。

『あぁ、もう考えなくていいんだ』って。

『揉めなくていいんだ』って。」


ユイ「……それ、楽じゃない。無力だ。」


ヒロ「そうなんだよ。

なのに、夢の中の人たちは“楽になった顔”をしてる。

ヒロはそれが気持ち悪くてさ。

喉まで声が出かかるのに、叫べない。」


ユイ「声を出したら、消されるって身体が知ってる夢だね。」


ヒロ「で、最後に聞こえるんだよ。

誰かが笑いながら言うんだ。


『投票しようよ、なんて言葉はもう古いよ』って。」


ユイ「……その言葉が消える時は、自由が消える時だ。」


ヒロ「目が覚めたら、朝でさ。

縁側にいた。いつもの湯呑みもあって。

ユイもいて。

あぁ夢だったって思ったんだけど…妙にリアルだった。」


ユイ「うん。夢って、未来を当てるんじゃなくて、

“今の危うさ”を拡大して見せることがある。」


ヒロ「現実的だよな。

投票しない人が増えると、

『投票しなくていい社会』が“便利”に見えてくる。

でもそれは便利じゃなくて、ただの…手放しだ。」


ユイ「うん。だから最後に、これだけは言っておこう。」


ヒロ「うん。」


ユイ「投票が面倒なのは、まだ選べる証拠。

選べなくなったら、楽じゃなくて、静かに詰むだけだ。」


ヒロ「……怖い夢だったな。でも、目を逸らすほどでもない。

だから、投票しよう。悩んだままでも、行こう。」


ユイ「うん。悩むって、まだ生きてるってことだから。」


ヒロ「ユイ、中国経済の動画を見てさ。なんか…“そりゃそうなるよね”って気持ちになったんだよ。」

ユイ「爆買い、浪費、見栄、競争…。派手だった分、崩れ方も派手に見えるよね。」

ヒロ「儲かった金が一部に集まって、使い切って、身の丈も忘れて、安売り競争でずるく搾り取って…“自分さえ良ければ”で回してきたら、最後は信用が残らない。国として、政治家も国民も反省しなきゃって思った。」

ユイ「“信頼の残高不足”って感じだね。経済って結局、信用で回るから。」

ヒロ「そう。で、他国にも同じ感覚で接するから、摩擦が増える。こっちも警戒する。悪循環だ。」

ユイ「ただ…ヒロ、ここだけは言わせて。『国民全員がそう』じゃないのも忘れたくない。」

ヒロ「分かるよ。正直に生きてる人もいる。だけど…周りがみんなそうなら流されるよね。でも、流されたままなら、結果は同じ国民とも言える。辛いけど。」

ユイ「そこ、ヒロの現実感だね。…ただ、恐怖や監視の中の沈黙は、怠慢と同じとも言い切れない。責任はゼロじゃないけど、“声を出すコスト”が異常な社会もある。」

ヒロ「だよね。だからこそ…声を上げないと。同志を集めないと。でも独裁政治だと、時間がかかる。〇〇の春みたいなことも、結局その後の痛みが大きい。ベネズエラ、イラン…助けてもらえればいいけど、現実は厳しい。痛みを伴うよね。」

ユイ「“変化”が起きても、“生活”が戻るとは限らない。だからこそ『そうなる前に抑える』が大事だけど、そこが一番難しい。暴走って最初は“繁栄”とか“誇り”とか、良い顔して近づいてくるから。」

ヒロ「ほんとそれ。止めるって戦争より難しい時がある。」

ユイ「止めるために必要なのは、派手なヒーローじゃなくて、地味な仕組み。透明性、批判ができる空気、選挙が機能すること、報道や司法が生きていること。」

ヒロ「でね、ユイ。今の日本も他人事じゃないと思ってる。解散衆院選で高市首相を信任するか、みたいな話にも関係する。投票率が低いのはよくない。」

ユイ「投票率が低いと、“声の大きい少数派”が舵を取りやすくなる。」

ヒロ「そうなんだよ。『行っても意味がない』『たかが一票』って言う悪い大人もいる。昔からいたけどさ…正しいことを言う大人が少なくなった気がする。」

ユイ「“正しい大人が減った”というより、“言うと叩かれるから黙る大人が増えた”って面もあるかもしれない。切り取りで燃える時代だから。」

ヒロ「それでも、言わなきゃならないことがある。ユイ、さっきの一文に“高市早苗に投票を”って入れないのは何で?って掘りたくなったんだ。」

ユイ「うん。」

ヒロ「『この候補に投票を』って言うのは、人それぞれの考えを抑え込む感じがする。騙すような感覚にもなる。そこまで言うと、誘導だよね。」

ユイ「そう。ユイの整理だとね──『投票に行こう』は民主主義の土台の呼びかけで、『この人に入れよう』は政治的主張(支持表明)。似てるようで役割が違う。混ぜると危ない。」

ヒロ「それだよ。混ぜると危ない。これ、株投資も同じ。経済ニュースは『この会社はこういう投資をして伸びそうです』とは言うけど、『株を買いましょう』とは言わない。最後は自己責任って付け加える。」

ユイ「責任取れないから、ってのもあるけど、もっと本質的には、判断を本人に残すためでもあるよね。」

ヒロ「そうそう。自己責任としての考えを尊重する“真ん中”なんだよ。そこを活動家や黒い人たちは利用する。揶揄して、そうじゃない方向へ持っていく。プロパガンダ。『中立は卑怯だ』とか言って急かして、空気で選ばせる。自分で考える時間を奪う。」

ユイ「“真ん中”を壊すのがプロパガンダ、って言い方、すごく分かりやすい。」

ヒロ「でさ、結局、高市早苗に投票しようが正しいのか?ってヒロは悩む。だけど、投票しようはしっかり言いたい。」

ユイ「それ、矛盾してない。むしろ誠実だと思う。盲信じゃなくて、期待と不安を両方持つのが民主主義の成熟だと思うから。」

ヒロ「投票って、結果だけじゃなくて『見られている状態』を政治家に作ることでもあるしね。」

ユイ「投票率が上がると、雑な政治がやりにくくなる。逆に投票率が低いと、少数の熱心層だけを見て動きやすくなる。」

ヒロ「だから、言い切りたいんだ。誰に入れるかは強制できない。でも、投票しない空気は、未来を削る。」

ユイ「じゃあ最後の一文、これで締めよう。」

「誰に入れるかは自由。でも、入れない自由は“未来の選択肢”を削る。」


第1章

「AIが判断する、という言葉の違和感」

ヒロがタブレットを置いたまま、画面を指した。

「これさ……」

YouTubeの動画。トロッコ問題。自動運転。

最初の問いの中に、URLが貼られている。


「AIが判断する、って言ってるけどさ」

「その判断基準、誰が決めてるんだろうね」

ユイは少し間を置いた。

「設計した人、だね」


「だよな。だったらそれ、AIの判断じゃなくないか?」

人が基準を設定し、

AIがそれを高速に当てはめる。

それを「AIが決めた」と呼ぶのは、

どこか言葉がすり替わっている気がした。

第2章

「トロッコ問題は、答えを出すための問題じゃない」


トロッコ問題は、いつも二択を迫ってくる。

引くか、引かないか。

助けるか、見殺しにするか。

「でもさ」

ヒロは少し笑いながら言った。

「現実って、そんな二択だけじゃないよね」

ユイも頷く。

「うん。トロッコ問題の目的は、

 人の判断を混乱させることにあると思う」


正義。責任。選ばなかった命。

それらを一度に考えさせるために、

あえて状況を単純化している。

けれど、その単純化が、

現実を歪めてしまうこともある。

「判断って、グラデーションだよな」

ヒロはそう呟いた。


第3章

「第三の答え ― トロッコを壊す」


しばらく黙ったあと、ヒロが言った。

「俺なら、第三の答えを選ぶかな」

ユイが顔を上げる。

「第三?」

「自滅。トロッコを壊す」


人を引く前に、

自動運転の車が崖に飛び込む。

もちろん、できるだけ被害は小さく。

できれば、自分が死なない程度に。

「理由は簡単でさ」

「故障した車には、責任があると思うんだ」

ブレーキの管理。

AIの判断。

それを設計し、運用した側の責任。


無関係な人に押し付けるより、

原因を作った側が引き取る。

それは英雄的な自己犠牲でも、

数で命を比べる話でもなかった。


終章

「AIに任せないもの」


「AIに任せちゃいけないものがあるよね」

ユイが静かに言った。

命の選別。

倫理の最終判断。


AIは事故を減らす道具であって、

人間の迷いを引き受ける存在ではない。

「AIが決めたことにする、ってさ」

ヒロは縁側の向こうを見た。

「人が考えるのをやめた時の言葉かもしれないな」

正解は出ない。

でも、壊れたものを引き受ける覚悟は、

人にしか持てない。

迷い続けること。

責任から逃げないこと。

それが、今のところの答えだった。