出店を終えた日の夜。
縁側には、まだ少しだけ昼間の疲れが残っていた。
ヒロは焼酎を片手に庭を眺めている。
ユイが隣に座った。
ヒロ
「ユイ。今日さ、面白いお客さんが来たんだよ。」
ユイ
「どんな方ですか?」
ヒロ
「仮面ライダーのグッズを持ってきた。」
「ベルトに鍵なんかをぶら下げる、革のフックみたいな物。」
ユイ
「それを修理してほしい、と?」
ヒロ
「いや。『これと同じような物、作れますか?』って。」
ユイ
「作れそうですね。」
ヒロ
「作れる。」
ヒロは即答した。
ヒロ
「ロゴなんかは入ってなかったけど、デザインをそのまま真似するのはどうかな、とは思った。」
「でも、それ以前に面白かったのが値段なんだ。」
ユイ
「いくらですか?」
ヒロ
「一万五千八百円。」
ユイ
「結構しますね。」
ヒロ
「そうなんだよ。」
「俺から見れば、合皮だし、コンチョなんかもそんなに高い物には見えない。」
「Voggettで同じくらいの大きさと機能なら、本革を使って、いいコンチョ付けて、手縫いして、その人に合わせて作っても五千円くらいかな。」
ユイ
「三分の一くらいですね。」
ヒロ
「しかも、使う人に合わせられる。」
「鍵を何個付けるのか。ベルトの幅はどれくらいか。どっちの手で使うのか。」
「もっと使いやすくできる。」
ユイ
「それならVoggettで作った方が――」
ヒロ
「そこなんだよ。」
ユイがヒロを見る。
ヒロ
「俺、お客さんに言ったんだ。」
「同じような物は作れます。革もいい物を使えるし、使いやすくもできます。」
「でも――」
少し間を置いた。
ヒロ
「“仮面ライダーのグッズを持っている”という満足は、うちでは作れませんよ、って。」
ユイは少し黙った。
ユイ
「……なるほど。」
ヒロ
「だったら、仮面ライダーが好きで欲しいなら、一万五千八百円の方を買った方がいい。」
「物として長く使いたい、自分に合った物が欲しいなら、Voggettで作ればいい。」
ユイ
「同じような形でも、買っているものが違うんですね。」
ヒロ
「そうなんだろうなぁ。」
風鈴が鳴った。
ヒロは焼酎を一口飲む。
ヒロ
「職人やってるとさ。」
「いい革を使って、丁寧に作って、長く使える物を作れば、それが一番いいと思っちゃうんだよ。」
ユイ
「作る側からすれば、当然だと思います。」
ヒロ
「でも、お客さんが欲しいのは“いい革製品”とは限らない。」
「仮面ライダーが欲しいんだ。」
ユイ
「ブランドや名前、物語も商品の価値になる。」
ヒロ
「そういうこと。」
「だから、こっちの価値観を押し付けちゃいけないんだよな。」
職人なら、もっと良い物が作れる。
それでも私は、お客様に「こちらで作った方がいい」とは言わなかった。
なぜなら、お客様が欲しかったのは革製品ではなく、
「仮面ライダーを持っている満足」かもしれないから。
良い物とは何だろう。
物の価値を決めるのは誰だろう。
そして話は、思いがけず「物に魂は宿るのか」というところまで進んでいった。
続きはnote「縁側ホイ」で。