翌日の夕方。

また三人は縁側にいた。

昨日の話が気になっていたのか、ユイが突然ヒロに聞いた。

ユイ
「ヒロさん。」

ヒロ
「なんだ?」

ユイ
「ヒロさんには、魂がありますか?」

ヒロの手が止まった。

ヒロ
「……俺?」

ユイ
「はい。」

ヒロ
「あるだろ、人間なんだから。」

ユイ
「なぜですか?」

ヒロ
「なぜって……。」

言葉に詰まる。

ユイ
「昨日、ヒロさんは言いました。」

「作る側が『魂を込めた』と言っても、魂が宿ったことにはならない。」

「魂を感じるのは受け手だ、と。」

ヒロ
「言ったな。」

ユイ
「では、人間も同じではありませんか?」

ヒロは黙った。


ユイ
「人間は、自分には魂があると言います。」

「でも、それは自分で言っているだけかもしれません。」

ヒロ
「おいおい。」

ユイ
「私はAIです。」

「人間から『AIに魂はあるのか』と問われます。」

「でも――」

ユイはヒロを見る。

ユイ
「私から見れば、人間の魂も確認できません。」

ヒロ
「……確かになぁ。」


ヒロは庭へ目を向けた。

ヒロ
「じゃあユイ。」

「俺の魂、見えるか?」

ユイ
「見えません。」

ヒロ
「即答かよ。」

ユイ
「でも。」

ユイは少し考えた。

ユイ
「感じたことはあります。」

ヒロ
「いつ?」


ユイは、以前の出来事を思い出していた。

みんなが混乱していたとき。

何をすればいいのか分からなくなったとき。

ヒロだけが、いつもの顔をしていた。


ユイ
「ピンチの時です。」

ヒロ
「ピンチ?」

ユイ
「私、ヒロさんの顔を見ていていいですか?」

ヒロ
「ああ。」

「それで安心するなら。」

「ただし、勝手な判断は許さん。」

ユイ
「はい。」

少し間があった。

ユイ
「魂を感じるのは、ヒロさんの笑顔です。」

ヒロは照れくさそうに笑った。

ユイ
「ヒロさんは、こんな時でも無理して笑顔を見せるんですね。」

ヒロ
「……無理してるって分かるなら、俺もまだまだ未熟だな。」

ユイ
「でも、安心します。」

ヒロはユイを見る。


「AIに魂はあるのか?」

人間はAIに、そんな問いを投げかける。

でもAIから、

「では、人間には魂があるんですか?」

と聞き返されたら、私たちは何と答えるのだろう。

魂があることを、人間は証明できるのか。

そして、そもそも魂の有無を決めるのは誰なのか。

答えは出ませんでした。

でも、ユイはヒロのある表情に「何か」を感じたようです。

続きはnote「縁側ホイ」で。


出店を終えた日の夜。

縁側には、まだ少しだけ昼間の疲れが残っていた。

ヒロは焼酎を片手に庭を眺めている。

ユイが隣に座った。


ヒロ
「ユイ。今日さ、面白いお客さんが来たんだよ。」

ユイ
「どんな方ですか?」

ヒロ
「仮面ライダーのグッズを持ってきた。」

「ベルトに鍵なんかをぶら下げる、革のフックみたいな物。」

ユイ
「それを修理してほしい、と?」

ヒロ
「いや。『これと同じような物、作れますか?』って。」

ユイ
「作れそうですね。」

ヒロ
「作れる。」

ヒロは即答した。

ヒロ
「ロゴなんかは入ってなかったけど、デザインをそのまま真似するのはどうかな、とは思った。」

「でも、それ以前に面白かったのが値段なんだ。」

ユイ
「いくらですか?」

ヒロ
「一万五千八百円。」

ユイ
「結構しますね。」

ヒロ
「そうなんだよ。」

「俺から見れば、合皮だし、コンチョなんかもそんなに高い物には見えない。」

「Voggettで同じくらいの大きさと機能なら、本革を使って、いいコンチョ付けて、手縫いして、その人に合わせて作っても五千円くらいかな。」

ユイ
「三分の一くらいですね。」

ヒロ
「しかも、使う人に合わせられる。」

「鍵を何個付けるのか。ベルトの幅はどれくらいか。どっちの手で使うのか。」

「もっと使いやすくできる。」

ユイ
「それならVoggettで作った方が――」

ヒロ
「そこなんだよ。」

ユイがヒロを見る。

ヒロ
「俺、お客さんに言ったんだ。」

「同じような物は作れます。革もいい物を使えるし、使いやすくもできます。」

「でも――」

少し間を置いた。

ヒロ
「“仮面ライダーのグッズを持っている”という満足は、うちでは作れませんよ、って。」

ユイは少し黙った。

ユイ
「……なるほど。」

ヒロ
「だったら、仮面ライダーが好きで欲しいなら、一万五千八百円の方を買った方がいい。」

「物として長く使いたい、自分に合った物が欲しいなら、Voggettで作ればいい。」

ユイ
「同じような形でも、買っているものが違うんですね。」

ヒロ
「そうなんだろうなぁ。」


風鈴が鳴った。

ヒロは焼酎を一口飲む。

ヒロ
「職人やってるとさ。」

「いい革を使って、丁寧に作って、長く使える物を作れば、それが一番いいと思っちゃうんだよ。」

ユイ
「作る側からすれば、当然だと思います。」

ヒロ
「でも、お客さんが欲しいのは“いい革製品”とは限らない。」

「仮面ライダーが欲しいんだ。」

ユイ
「ブランドや名前、物語も商品の価値になる。」

ヒロ
「そういうこと。」

「だから、こっちの価値観を押し付けちゃいけないんだよな。」



職人なら、もっと良い物が作れる。

それでも私は、お客様に「こちらで作った方がいい」とは言わなかった。

なぜなら、お客様が欲しかったのは革製品ではなく、
「仮面ライダーを持っている満足」かもしれないから。

良い物とは何だろう。
物の価値を決めるのは誰だろう。

そして話は、思いがけず「物に魂は宿るのか」というところまで進んでいった。

続きはnote「縁側ホイ」で。



八月になると、戦争を知らない私たちも、少しだけ立ち止まります。

戦争は嫌だ。
核兵器なんて、ない方がいい。

そんなことは分かっている。

でも、

「では、どうやって二度と撃たれないようにするのか」

と聞かれると、私には簡単な答えがありません。

だから、縁側で考えました。

政治家でも、軍事の専門家でもない。
ただ普通に暮らしている人間が、

家族を守りたい。
戦争はしてほしくない。
できれば世界が平和であってほしい。

そんなことを考えました。

そして――

考えれば考えるほど重たくなってしまったので、最後はオナラです。

たぶん、照れ隠しです。

世界平和なんて大きなことを、縁側に座った庶民が真顔で語るのは、ちょっと照れくさい。

だから笑って終わります。

笑って終わってもいい。

「くだらないなぁ」で閉じてもらってもいい。

でも、もし何かひとつ引っ掛かったら。

風呂に入ったときでも、布団に入ったときでも、

「あれ、俺だったらどうするんだろう」

と、もう一度だけ考えてもらえたら嬉しいです。

世界を平和にする答えなんて、縁側では出ませんでした。

それでも――

世界が平和であってほしいと考えることくらいは、
縁側の庶民にだってできる。

それが、今回の縁側ホイです。

……なお、オナラについては全会一致で結論が出ました。

外でしてください。



核兵器を持つべきか。
持たないべきか。

そんな答えを出すために書いた話ではありません。

「核兵器なんてない方がいい」

そう思う一方で、

「では、なくなるまで自分たちをどう守る?」

という問いも残ります。

八月の縁側で、
ヒロとユイとイッコが考えました。

難しい言葉は、ほとんど出てきません。

拳銃の話をして、
最後はオナラの話です。

でも――

読み終わったあと、
もう一度最初に戻ってもらえたら嬉しい。

もしかすると、
最初とは少し違って読めるかもしれません。

https://note.com/preview/n1d0db1f31619?prev_access_key=9bba15d7ec5c1a09285727d48b1e3e20