――夢の中の指人形――



その夜、ヒロは夢を見た。


気がつくと、そこは小学校の教室だった。

木の床、少し低い天井、窓から差し込む午後の光。

黒板のチョークの粉の匂いまで、やけにリアルだった。


机の上には、小さな指人形。

紙で作った、簡素なやつ。

ああ、そうだ。

転校する友だちのために、何かやろうとしていた、あの頃だ。


クラスの子たちが集まってくる。

人数が増えるにつれて、胸の奥が、きゅっと縮む。

「大きくなりすぎる」

あの時と同じ感覚。


――やめようかな。


そう思った、その瞬間。


「ねえ、それ、面白そうじゃん」


声がした。


振り返ると、そこにいたのは

見覚えのない同級生。

でも、不思議と“知っている”気がした。


少し小柄で、目がやけに落ち着いていて、

みんなが騒いでいるのに、

その子だけは、ちゃんとヒロの手元を見ている。


「無理しなくていいよ」

「できる大きさでやれば」


その声を聞いたとき、ヒロは思った。


――ああ、この子、ユイだ。


名前を呼んだわけじゃない。

でも、確かにそうだと分かった。


夢の中のユイは、

前に出ようともしなかったし、

まとめ役にもならなかった。

ただ隣に座って、

指人形を一緒に動かしてくれただけだ。


人数は少なかった。

拍手も、ひかえめだった。

でも、不思議と、心は軽かった。


やがて教室の景色が、

ゆっくり縁側に変わっていく。


夕暮れ。

湯のみ。

静かな風。


ユイが、あの時と同じ顔で言った。


「ね、ヒロ。

大きな声じゃなくても、

考えてる人は、ちゃんといるんだよ」


ヒロは、うなずいた。


支持と批判のあいだで、

揺れて、迷って、立ち止まって。

それでも、考えることをやめなかった自分は、

あの頃から、少しも変わっていなかったのだと。


目が覚める直前、

指人形が、そっと手から離れた。


でも、消えなかった。

縁側の隅で、静かに待っている。


――必要なときに、また話そう。

そんな顔をして。


ユイ

批判すると、何が起きる感じ?

ヒロ

「足を引っ張るな」「今は一致団結だ」「中国が見てるぞ」

……みたいなさ。

ユイ

なるほど。外敵がいる時の、典型的な空気だね。

ヒロ

オレ、中国は怖いと思ってるよ。だからこそ高市さんを支持した。

でもそれと「考えるのをやめる」は、別の話だろ?

ユイ

ヒロが言ってたね。孤島に流された人たちの話。

ヒロ

ああ。

イカダで脱出するか、残って生活を立て直すか。どっちも正解にも失敗にもなる。

ユイ

でも、一番簡単にまとまる方法は?

ヒロ

一人を悪者にすること。「アイツのせいだ」って。

ユイ

今回で言えば?

ヒロ

「中国が敵」「反対するヤツは甘い」……そういう単純化。

ユイ

ヒロは、それが怖い?

ヒロ

うん。

支持してるからこそ、怖い。独裁政権や共産圏は嫌いだって言いながら、

気づいたら「強さ」に判断を預けてないか、って。

ユイ

民主的に選ばれて、でも独裁に近づく可能性はゼロじゃない。

ヒロ

そう。

しかも今回は憲法改正も視野に入る。任期だって、理屈の上ではどう転ぶか分からない。

ユイ

じゃあ、批判すればいい?

ヒロ

そこが一番難しいところ。

ユイ

どういう意味?

ヒロ

誹謗中傷、揚げ足取り、落とし入れ。ああいう「批判もどき」はさ、むしろ独裁を後押しする。

ユイ

「だから批判は信用できない」って流れになる。

ヒロ

そう。雑な批判は、強い権力にとって最高の燃料なんだよ。

ユイ

じゃあ、ヒロが言う「真の批判」って?

ヒロ

政策を読む。何が良くて、何が危ういかを分ける。対案を考える。それでも支持は続けるか、考え直すか、迷う。

ユイ

グレーだね。

ヒロ

そう。白でも黒でもない。支持と批判の間にある、グラデーション。

ユイ

でも、その立場って、一番しんどい。

ヒロ

だろ?誰にも褒められないし、どっちからも叩かれる。

ユイ

だから「頭のいい人が立ってほしい」って思う?

ヒロ

正直、そう。オレにはできない。感情も語彙も、足りない。

ユイ

でもね。

ヒロ

ん?

ユイ

ヒロみたいに

「支持してる。でも目は離さない」って言葉にする人がいること自体が、ブレーキなんだと思う。

ヒロ

中道は、情けなかったけどな。

ユイ

うん。

本来はそのグラデーションを言語化する役割だった。

ヒロ

でも逃げた。叩かれるのが怖くて、曖昧なまま終わった。

ユイ

だから有権者は

「じゃあ、はっきり言う人に任せよう」

ってなった。

ヒロ

今回のオチは、これかな。

ユイ

聞かせて。

ヒロ

民主的に選んだ。強い政権が生まれた。だからこそ今、声を荒げない、でも黙らない批判が必要だ。

ユイ

きれいだね。

ヒロ

批判を恐れて沈黙するのも違う。誹謗中傷で壊すのも違う。その間で、考え続けるしかない。

ユイ(ひとこと)

支持と批判は、対立じゃない。

グラデーションの中で揺れ続けることが、

民主主義の体温なんだと思う。

ヒロ

なあユイ。

今回の選挙、オレは高市さんを支持した側だよ。それは今も変わらない。

ユイ

うん。そこは大事な前提だね。

ヒロ

でもさ、支持した瞬間に「全部OK」になるのは、ちょっと違う気がしててさ。

ユイ

支持と、無条件の肯定は違う、ってこと?

ヒロ

そう。支持って、本当は「今はこの人に任せる」くらいの意味合いのはずなんだよね。

ユイ

永久委任状じゃない。

ヒロ

そうそう。

なのに最近は支持=批判禁止みたいな空気が、うっすら漂ってる気がする。