職場のバイト君のおすすめ本。初めて読んだが、恐るべし沼田まほかる。全9話どれもが暗い魅力に溢れている。奇妙な味ファンは必読。
現在と過去の記憶が混濁した老女が物置にしまったバックを延々と探す「林檎曼荼羅」と、略奪婚に成功した女性が彼氏が褒め称える前妻に怯える「エトワール」はどこの傑作短編アンソロジーに収録されても見劣りしない傑作。出入りの植木屋に自分の娘より大切にされる「沼毛虫」、偶然に一緒に暮らすことになった若い男に心惹れる孤独な女性を描く「やもり」、さらには「クモキリソウ」「レイピスト」「TAKO」など善と悪が反転するその鮮やかさに驚嘆し、そして困惑する。「テンガロンハット」「普通じゃない」はユーモア混じりだが、これは笑わせるための物語ではなく、笑いを凍りつかせる物語だった。
全編を通して語られるのは善と悪がいかに表裏一体であるかということ。人は愛するゆえに盲目となり、愛しすぎたゆえに闇に落ちる。人の善意によって悪が為され、悪意によって人が救わる。哀しみと喜びが入り交じり、苦しみと楽しさが同居する。この短編たちを読んでいると、善悪や喜怒哀楽の区別のない世界こそが現実の世界に思えてくる。僕達は本当はこんな言葉の意味に囚われ不自由になっているのではないのか。剥き出しになった人間の姿。それは、グロテスクであるがゆえの圧倒的な存在感で、読むものの脳裏に焼き付く。
