『授乳』 村田沙耶香/講談社文庫 | 砂場

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本の感想と日記。些細なことを忘れないように記す。

授乳 (講談社文庫)
授乳 (講談社文庫)
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村田 沙耶香
講談社
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第46回群像新人文学賞(小説部門・優秀作)を受賞した「授乳」と「コイビト」「御伽の部屋」の3篇からなる著者デビュー作。『ギンイロノウタ』で野間文芸新人賞を受賞し、今年の三島賞にも『星が吸う水』でノミネートされるなど、今後の活躍が期待される新人作家。僕も前回読んだ『ギンイロノウタ』に衝撃を受けたいきなりファンになってしまったので、今回のデビュー作の文庫化を迷わず購入して速攻で読んだ。

表題作の「授乳」。父親を嫌悪しながらも従順で神経質な母親の姿にいらだち、同級生なら虐めているなと思う娘が主人公。家庭教師としてやってきた大学院生の青年は無口で無機質で自傷癖がある。どこか病的な空気が蔓延する世界観。大人と子供の中間に位置する思春期の不安定さ。母親からの支配を嫌悪することの裏返しに、弱い存在である青年を支配しようとする。

「コイビト」は『ホシオ』と名付けたぬいぐるみを恋人として愛し中学時代から全てを捧げてきた女性が、同じようにぬいぐるみを愛する小学生の少女と出会う物語。「御伽の部屋」は女子大生が男性とまるでドラマのワンシーンのような出会い方をする。そして、そのままお互い自分に求められる恋人像を演じていく二人の物語に、彼女が小学生の頃に知り合った女装をする性同一性障害の男子中学生の記憶が挿入される。

周りではクラス中の人間が一斉に咀嚼をしている。四十二個の口が整列して、同じ食物を唾液にまみれさせていると思うと気分が悪くなった。
p30「授乳」

普段は窓際で日にあたるホシオのことを考えながら一日を過ごす。余計な体力を消耗したくないので、ほとんど動かないし、できれば眠る。
p65「コイビト」

まともで健康的な普通の人間だなんて漫画やドラマの中にしかいないものかと思っていたのに、それが目の前で動きまわっているのであたしは苦しかった。
p182「御伽の部屋」

村田沙耶香の小説を読んでいると、この世界がゆがんで見えてくる。僕が自然だと思っていることは不自然で、不自然で病的な感覚だと思っていたこそが正常なのではないか。正常と異常という価値基準が意味を無くし、剥き出しで生々しい人間がそこに現れてくる。その姿はとても病的でありながらも、生き生きとした生命力が溢れている。僕はその迫力にただただ圧倒され、物語の余韻からなかなか抜けられなくなる。