詩人というのは僕などとはまったく違ったところに立っている。研ぎ澄まされた感性で、僕には感じることのできない、世界の断片を鮮やかに切り取り、時には真実の欠片をがさりと拾い上げ、言葉にする。そんな特殊能力を持った別世界の住人。
というのが僕の詩人に対するイメージだった。けれど、このエッセイ集での谷川俊太郎は特別な人間ではなく「日常を過ごすひとりの年老いていく男」だった。人はやがて年老いて死ぬのだということをネガティブではなく、かといってポジティブでもなく自然体に向き合っていくその姿勢。詩人を職業として選んで生きてきた、ひとりの人間の姿が丁寧に描かれていた。
等身大の日常。詩人を特別視していた僕にはちょっと寂しいところもあるけれど、よくよく考えたらこちらのほうが凄いことに気付いた。特殊能力を持った別世界の人が素晴らしい詩を生み出すよりも、普通の生活を営む普通の感覚を持った人が素晴らしい詩を生み出すほうが魔法みたいだ。
