スリという犯罪の世界でしか生きられなかった男。だが良心のある彼は金持ちからしかスリを行わない。その天才的なスリの才能と、悪に染まりきらない浮いた存在である彼に目をつけた闇社会の男・木崎。木崎は彼に無謀な仕事を依頼する。そして、それを断れば彼が親しくしている子供を殺すと。
ベタな展開の犯罪小説も、芥川賞作家が書くと一味違う。「悪」をテーマに小説を書いてきた著者と犯罪小説の相性はかなりいいのではないだろうか。犯罪が行われる時の緊張感や、その天才的なスリの技術や手法など、ミステリー作家も顔負けのハイレベルな内容だ。これは著者の新たな代表作となるだろう。文学路線も好きだが、この路線も継続して書いて欲しい。読みやすさと内容の密度のバランスがとてもいいと思う。
