歌うことで肉体から精神を解き放つ「飛翔」に憧れた少年の波乱に満ちた半生。「アンダーゴッド」という原理主義的な宗教が勢力を伸ばし、似非黒人(フオウニー)という白人が肌を黒くすることが流行するアメリカ。近未来SF設定でありながらも、ひと昔前のアメリカと重なるような時代背景という、未来と過去が同時に詰め込まれたこの物語。1979年に書かれたものだが、まったく色褪せていない。むしろ輝きを増しているのではないだろうか。
SF小説としてだけではなく、夢を追い続ける「少年」の青春小説であり、その苦難の生涯を辿る教養小説として、また歌うことの素晴らしさを描いた音楽小説として読むことができる。さまざまなジャンルを内包しているだけに、重厚な内容になっている。幸福と不幸、支配と服従、成功とか挫折、様々な状況が目まぐるしく移り変わる。幸福と不幸が同時に現われ、支配と服従が同居し、成功と挫折がイコールで結ばれる。
そんな物語の中で、何度も何度も繰り返し描かれるのが「歌うこと」と「飛ぶこと」。「飛翔」を生涯の目標とした少年は、飛ぶために何度も歌う。だが、彼には才能が無く飛翔速度に達することができない。歌うことの喜びと、飛べないことの悲しさが入り混じり、それがやがて彼の人生そのものになっていく。それは「夢」と呼ぶこともできる。「愛すること」と言ってもいいかも知れない。彼の人生が「勝った」のか「負けた」のか、そんな区別は意味を無くしていき、ただもう少しその歌を聴いていたかったなと、読み終えた僕は思う。
