『愛でもない青春でもない旅立たない』前田司郎/講談社文庫 | 砂場

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愛でもない青春でもない旅立たない (講談社文庫)
前田 司郎
講談社
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大学生活には、「愛」や「青春」や「旅立ち」というものが、ありそうな気がする。この物語でも日常のなかに、恋人や人間関係のなかに、そういったものが現れそうな予感がする。けれど、それらは答えまで辿りつかない思考の波に飲み込まれ、グズグズと消えていく。何か深い意味が隠されていそうな、そんな夢や非現実の世界もまた、掴み切れないままに崩れ落ちていく。

生きていく上の確固たる意思もなく、楽なほう欲望の赴くままに流されてしまうグダグダした生活を送る主人公。そこに「真実の愛」や「かけがえのない青春」などあるわけもなく、もちろん「今ここからの旅立ち」もない。けれど、その変わりに、この物語は本当の「日常」にたどり着く。どこにも答えなどなく、どこにも真実の姿はなく、それでもそれなりに続いていく日常。

この物語が、どこか頼りなく、どこか寂しげで、どこかせつないのは、この物語のなかに「愛の切れ端」や「青春という幻想」や「旅立ちの予感」がほんの僅かにだが存在するからだろう。それは、僕が過ごしてきたの十代、二十代の姿でもある。