2008年10月に読んだ本 | 砂場

砂場

本の感想と日記。些細なことを忘れないように記す。

年内の書評は年内に書き上げたいと、思うけれど。

クレストブックから堀江敏幸が選んだベスト短編集。繊細な描写によって描かれる物語たち。世界中を舞台に、様々な人の人生が切り取られる。何かを掴み取ることと引き換えに、何かを失うこと。静かな夜に読みたい、心に沁みる物語たち。なぜこの本がベストセラーにならないのだろう。


ctの深い川の町
岡崎祥久
講談社
発売日:2008-08

バカっぽく適当に思える言葉を投げ散らかしても、それが誰かの言葉に届けば、そこに幸福が生まれる。何もせず、何も答えなくとも、誰かの救いになることがある。ぼんやりと悩みながらタクシーを運転するこの主人公は、物語の中では何もしていないようで、何人もの人の救いとなっていく。何か夢を追うこともなく、一生懸命になるでもなく、けれどだらけているわけでもなく、人並みに不満などはあるけれど、真面目に淡々と働いて生活をする。そうした地味な生活のなかで、地元ならではの出会いがあり、そこから人と人が繋がり何かが生まれる。それらが「小さな幸せ」なんかに回収されず、主人公にとってはいつもどおりの「ぼんやりと悩んでいる日常」として過ぎていくあたりが味わい深い。


地図男 (ダ・ヴィンチブックス)
真藤順丈
メディアファクトリー
発売日:2008-09-03

東京の地図を持って歩き続ける男。その地名のところには、誰かに語りかけるかのような文体で物語が描かれている。3歳の天才音楽家。山賊となった男、東京の区を代表して夜な夜なバトルを繰り広げるアングラ世界、世界を折り合いのつかないムサシとアキルの恋物語。この物語たちは、誰に向かって語られているのか。古川日出男のような設定と世界感と文体で進みつつも、エンタメ小説として見事に着地。


モダンタイムス (Morning NOVELS)
伊坂幸太郎
講談社
発売日:2008-10-15

浮気を疑った嫁に送り込まれた拷問男。暗号が隠された謎のプログラム。過去にあった小学校襲撃事件。様々な要素が入り乱れ、戦うべき相手もわからないまま、奮闘する主人公とその仲間。やっぱり伊坂幸太郎は面白い。『ゴールデンスランバー』と平行して書かれたということで、それぞれ補完しあっているところも読みどころ(前作が「逃げる」のに対して今回は「戦う」とか)。


ことば汁
小池昌代
中央公論新社
発売日:2008-09


幻想的な6つの短編。共通しているのは動物化。人間の心の奥底に眠る欲望が解放され、人がその姿を変えていく。悪夢のような世界なのに、動物化したした人間たちは自分の本来の居場所を見つけたかのように、生き生きと心地よさそうに思える。人間が人間の皮を破る恐ろしさと、その変わり身の鮮やかさが秀逸。



閉塞感の漂う生きにくい現代の若者を取り巻く状況について、もっとも若者に寄り添って考えている社会学者は鈴木謙介だと思う。安易な既得権批判を否定して「ほんとうの幸せ」という虚構の権利を主張するのではなく、「ほんとうに幸せになる」ための道を探る。名詞から動詞へ。


一度、マンガの評論というものを読んでみようかなと思って購入。文学や音楽・映画評論と同じようにマンガも評論されるだけの作品であるという当たり前のことを、今更ながら確認。エロ漫画にヤオイから、変身ヒーローなど幅広い内容。


偶然と必然をどう捉えるかによって、人生の意味は大きく変わる。真理は必然にだけ宿ると考える西洋と、偶然のなかに無常という価値を見出す日本。日欧文化論として明快であり、また偶然が思想史のなかでどう扱われてきたのかということも分かりやすく書かれてあって興味深い。偶然か必然かという問いが実はとても主観的なものであることを解き明かし、偶然と思ったことが必然に思えてくる心の変化こそ大切だと著者は説く。