佐藤友哉が面白かったから、何か他に実験的な小説が読みたいなと自宅の本棚を眺めていたらこの本を見つけた。こちらも三島賞受賞作。僕にとって中原昌也は、よく読んでいる雑誌SPA!で映画評「エーガ界に捧ぐ」を連載している人で、聴いたことないけど暴力温泉芸者の人であり、一部の批評家に絶賛されいるいもかかわらず芥川賞は見事に落選した人だという程度の知識しかなくて、今回小説は初挑戦だ。
見事に実験的で前衛的な今まで読んだことのない変な小説だった。文庫本で160ページほどの長編小説だが、主人公がどんどん入れ替わる。冒頭では徹也という男が小林という男に椅子に縛り付けられて暴力を受けているのだが、視点は徹也から小林へと移り、彼が生計を立てるために書かせている絵ハガキを受け取った、美容院の恵美子の怒りと混乱が描かれる。そして店主の陽子、客でルポライターの岡田と視点は目まぐるしく変わる。どうやら小林が人間関係の中心にいるようではあるが、別に小林から繋がった人たちの群像劇という印象もない。ただ次々に舞台に上がる人が変わっていくだという印象。これが不思議と面白い。
視点が変わるように登場人物の性格も変化する。冷静だった人が突然怒りを爆発させるように激しい感情の変化があるというよりは、一瞬にして別人に入れ替わったような違和感。それぞれが別人なら問題ないのだが、同一人物であるために生じる違和感が狂気を演出する。そして、くり返して描かれる、一方的な暴力、湧き上がる怒り、脈絡のない展開、短絡的で不真面目な思考、根底にある無力感。この一貫した不条理が小説の土台を支えている。
タイトルは『あらゆる場所に花束が……』となっている。「あらゆる場所」が小説の中で描かれるそれぞれの場面だとすると、そこに捧げられるのは、祝福の花束か、弔いの花束か。僕はその両方の意味を持つ花束がふさわしいと思う。
★★★★★(あまりお奨めできない本だけど個人的には楽しめたので)
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